『犬(きみ)がいるから』のシーンを訪ねて ー特集「レト愛が止まらない!」村井理子
ウェブマガジン「空き地」で、黒ラブの子犬との日々を綴った連載エッセイ「犬(きみ)がいるから」が始まったのが、今年5月(当時2017年)。
以来、その噂は口づてで広まり今や月2回の連載を楽しみにしているファンも多いといいます。
その著者である村井理子さん&愛犬ハリーに会うべく、初冬の琵琶湖を訪れました。
かじられた跡もいつかはいい思い出になる……かも。
Family
村井理子
Ret
ハリー(1歳)

右奥に見えるデスクで仕事をしている村井さんを、いつもハリーはこのソファからじっと見守り続けている
レトリーバーの子犬を迎えること。
それは、まるで
ジェットコースターのような
日常が始まることを意味する。
その可愛さにメロメロになった直後に
イタズラにブチ切れ
自分自身の至らなさに落ち込んだ後
ちょっとしたしぐさに和まされたり——。
それまでの平穏な日常が一変。
毎日毎日翻弄され
必死で向き合い続けている日々。
けれどいつしかその速度は
少しずつ少しずつゆっくりになる。
そして、あるとき懐かしむようになるはず。
「ああ、あのころは楽しかったなあ……」と。

村井さん宅に刻まれた、ハリーの勲章。

ダイニングの椅子の脚はかじられ、プランターをのせたキャスターはもはや原型を留めていない。

フードストッカーのフタが開いているのを見るやいなや、前脚が浮くのもかまわず夢中で顔を突っ込む。 村井さんのストールを奪ってオモチャにする……。 でも、そのまだあどけなさの残る顔で見つめられたら、思わずすべてを許さずにはいられないのだ。
文=山賀沙耶
私の人生に初めてレトが加わったこの一年のこと
ハリーがわが家の一員になって、そろそろ一年が経とうとしている。
やってきた当初は、まるでぬいぐるみのように愛らしかったハリーも、今や立派な大型犬に成長した。逞しく、力強く、そして、とっても甘えん坊のイケワンだ。
大きな体をしているくせに、私にぴったりとくっついて離れない。私がソファに座れば、なんとしてでも隣に座って、膝の上に大きな顔を乗せて甘えてくる。
本当にかわいいハリー。私の大切な犬だ。
それでも、この一年は苦労の連続だった。ハリーは、その愛らしい表情とは裏腹に、とんでもない破壊王なのだ。
一瞬の隙をついてありとあらゆるものを口にくわえ、猛スピードで家中を走りまわり、破壊する。
家具という家具に歯形がつき、靴は何足もビリビリに破られた。
ベランダの床板を噛んで大穴を開けたときは、あまりのパワーに唖然として、叱ることさえできなかった。
今となっては家中ボロボロの傷だらけ。レトリバーの破壊行動には笑うしかない。
でも、困っていたのはそれだけではない。
ハリーが子犬の頃、私を大いに悩ませていたのは、双子の息子たちに対する甘噛みだった。
本気で歯を立てることはなかったけれど、尖った乳歯で二人の両腕に引っかき傷をたくさん作った。
そんなハリーに二人はたっぷり泣かされた。
時には腹を立てた息子たちとハリーの間で大げんかが繰り広げられた。
あっち行け! と言われて、ションボリするハリーに心が痛んだし、子どもたちがハリーを避ける気持ちだって私には理解できたから、私にとっては頭の痛い状況だった。
幸運なことに、素晴らしいドッグトレーナーに巡り会い、ハリーは家族の一員としてのマナーを理解しはじめている。
そして子どもたちも、ハリーを力で制するのではなく、指示を出すことで互いに理解し合えると学んだ。
そして一番困っていたのは、ハリーの怪力についてだった。
今となってはハリーに申し訳ないと思うけれど、それでも正直なことを書けば、レトリーバーという選択が間違っていたのではと何度も考えた。
生後六カ月を過ぎたあたりからの、とんでもない成長スピードに、こちらの理解も、体力もついていくことができなかったのだ。
リードを思いっきり引っ張るハリーに振り回され、毎日の散歩は苦痛でしかなかった。
都会に比べて自由運動をさせやすい田舎の、それも湖の近くに住んでいたのは幸運だったと思う。
とにかく必死だった。泳がせている時にハーネスが外れてどこかに行ってしまい、真っ青になったこともある。
一瞬の隙を突いて玄関から飛び出し、ご近所さんが夏祭りを開いている会場にウハウハと走って行き、大騒ぎになったこともある。
強い力で引っ張り回され頭にきて、「どうにでもなれ!」と、リードを投げ出したことだってある……。
ハリー、頼むよ。お願いだから、私の言うことを少しは聞いて。
まっすぐ私を見つめる無邪気なハリーに、何度語りかけたことだろう。
毎日、祈るような気持ちでハリーと過ごしていた。イスを壊されては落ち込み、バッグに穴を開けられては怒った。
でも、何より、どうしたらハリーと家族が安全に暮らすことができるか、そればかりを考える日々だった。
あきらめかけたことだって、何度もある。
それでも、私の話をじっと聞くハリーの姿を見れば、努力次第で立派な犬に成長してくれることは明らかだった。
だから、ここであきらめちゃだめだと自分を奮い立たせた。
だって私が選んだ犬なのだから。こんなにも賢い、素晴らしい犬なのだから。
こう考えられるようになってから、私とハリー、一人と一頭の訓練がはじまった。
とにかく、前を向いて一緒に歩くのだ。私を引っ張らないように、何度も言い聞かせながら、ゆっくり、ゆっくりと。
ハリーが一緒に歩くことを楽しめるように、私自身が散歩の時間を楽しむように心がけた。
決まった道を、気が遠くなるほど歩いた。
時には景色を眺めながら、登校していく小学生の列を見送りながら、雨の日も風の日も、休むことなく歩き続けた。
いつ頃からか、ハリーがリードを引っ張る回数が少なくなり、気がつけば散歩が何より楽しい日課となっていた。
毎朝、ハリーの散歩をすることで得られる達成感が心地よかった。大型犬と散歩することで、私は自分に自信を持つことができたのだ。
さて、心も体もすっかり成長した最近のハリーは、私や家族のことを心から慕ってくれているようだ。
家族には「違う!」と言われそうだけど、たぶんハリーは私のことが一番好きだ。
どこへ行くにもハリーは私の側を離れようとはしない。
うきうきとした表情で車の助手席に乗り込み、私につきあってくれる。まさに私のボディーガードだ。
ハリーは、わが家にとって、かけがえのない存在となった。
苦労も多かったけれど、今となってはそれもすべて笑い話だ(ただし、破壊活動だけは元気に継続中)。
ハリーの大きな顔を両手で包むと、ふわふわとやわらかくて、なんともいえない幸せな気持ちになる。
こんなにかわいい子が私の犬でいいのかな。
ピカピカの鼻や立派な口元が、なによりとても美しい。叱られて困った時の八の字眉毛も、楽しい時の笑顔も、全部、全部、大好きだ。
いつまでも私の側にいてほしい。私の大切なハリー。
Profile
村井理子
むらいりこ。1970 年、静岡県生まれ。翻訳家。訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)など。著書に『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)
ウェブマガジン「あき地」
http://www.akishobo.com/akichi/
亜紀書房が運営するウェブ連載媒体。子どものころに日が暮れるまで友達と遊んだ“あき地”のように、出入り自由で、開か
れた表現の場になることを願って作られた。「犬(きみ)がいるから」は月2回の更新
写真=葛原よしひろ イラスト=たけなみゆうこ
※この記事は、雑誌『RETRIEVER vol.90(エイ出版)』からの転載です。一部加筆・修正をし、公開しています。
おすすめ記事
-
【生きたまま腸に届く!】大正製薬の犬用栄養補助食品「わん ビオフェルミン®︎S」で、健やかな暮らしを。
本日ご紹介するのは、大正製薬が開発した犬用栄養補助食品「わん ビオフェルミン®︎S」。腸は愛レトの健康維持に欠かせない重要なケアのひとつで、日々の食事だけでは補いきれないことも。
「わん ビオフェルミン®︎S」は、いつもの食事にふりかけるだけでOK。しかもたったひとつのサプリで、大腸・小腸の両方にアプローチしてくれます。
毎日忙しいママとパパにおすすめしたい理由をお届けです!
(PR 大正製薬株式会社)
PR -
【レトオーナー注目!】ドッグパークにテラスでBBQ!愛レトと楽しむヴィラリゾート「かなたのさと」OPEN
今回ご紹介するのは、大阪市中央部から1時間半でアクセスできるヴィラリゾート「かなたのさと」。
関西最大級の広さと開放感を誇る道の駅「四季の郷公園」の中で、テラスで味わう豪華なBBQなど、愛レトと一緒に贅沢なひとときを堪能できます。
ほかにも、体を動かすことが大好きなレトリーバーにもぴったりな、ドッグパークや施設が充実。
自然豊かな環境で過ごすことで、日々の喧騒を忘れ、愛レトもオーナーも心からリフレッシュし、新たな思い出を作りませんか?
和歌山県の里山に佇むヴィラリゾートで、自然と美食を満喫する贅沢な時間をご堪能下さい。
(PR かなたのさと)
-
【掃除機革命!】ゴミ捨て不要・抜け毛がからまない・ナノイーX搭載のパナソニック『セパレート コードレス掃除機』に驚愕
レトリーバーにどっぷりハマって見えた、新たな事実…。それは彼らの換毛期はバラバラで、一年中抜け毛が激しいということ。しかも在宅時間が増えたから、今まで以上に抜け毛が気になって仕方がない…!
今回ご紹介するのは「スティック本体のゴミ捨て不要/抜け毛がからまない/ナノイーX搭載/超軽量」の革命的な掃除機。
編集部も驚愕した、今の時代にふさわしい掃除機の全貌をご覧あれ!(ハッキリいって、見なきゃソンです)
(sponsored by パナソニック株式会社)
PR -
【取材・看板犬】大型犬の聖地!湘南のドッグカフェ&ラン〜看板犬はゴールデンのマーリー〜
レトをはじめとした大型犬オーナーが頭を悩ませるのは、彼らが存分に楽しめるドッグラン探し。広いのはもちろんのこと、そこに集まる犬種だって私たちには重要!
今回取材をしたのは、大型犬が多く集まるドッグカフェ&ラン「Ven! (ベン)kitchen&dog garden」。ここの看板犬はゴールデンレトリーバーのマーリー。だからなのか、集まるワンコたちも大型犬が多数!
取材 -
【取材】「今日はノリが悪い」で炎症発見。12歳&14歳、2頭をレジェンドにしたのは小さな違和感も見逃さない観察力。 #2 大吉
平均寿命が10〜12歳と言われる大型犬のレトリーバーたち。そこで10歳を過ぎたレトリーバーを憧れと敬意を込めて“レジェンドレトリーバー”と呼んでいるRetriever life。その元気の秘訣をオーナーさんに伺うのが、特集『レジェンドレトリーバーの肖像』です。今回は、つい最近まで14歳の黒ラブ・カノンちゃんと暮らしていた大吉くん12歳が登場します。2頭のレジェンドレトを育てあげたオーナーさんのお話には、きっと長生きのヒントが隠れているはず。
連載 -
やんちゃな子犬に優しく寄り添い、大きな心で受け入れてくれたゴールデン。【ほっこり動画】
今回ご紹介するのは、パピーに優しく接するゴルの動画。ウトウトしているところに突撃されても、文句も言わずに受け入れてくれるのです。さらには笑顔って…紳士すぎ!
-
「まだかな…」大好きなパパの帰宅を待つラブラドール。健気な後ろ姿が愛おしすぎた【動画】
今回は、どうしたって愛おしく感じてしまうラブのお出迎えシーンをご紹介。オーナーさんの帰宅を察して一目散に駆けてきたり、帰宅前からソワソワと待ち続けていたり。こんなお出迎えをしてもらえたら、一日の疲れなんて吹き飛ぶでしょうね!
-
【インタビュー】マンボウやしろ〜究極のラブラドール愛と、女性に“飼われてみた”日々〜
元お笑い芸人の「マンボウやしろ」さんは、大のラブラドール好きとして知られています。ラブラドールが大きく描かれたTシャツを5着も所有し、将来の夢を聞かれたら「ラブラドールで軍隊をつくること」と答えるほど。
今は環境柄ラブラドールと暮らせないとのことで、今回はたっぷり触れ合っていただき、ラブラドール愛を語っていただきました。
取材 -
(スイー…)泳ぎが苦手なゴールデンが浮き輪を使って上手に遊んでた。これは可愛すぎる【動画】
ゴルは水や泳ぐのが好きな犬種。水上に落ちたおもちゃを回収したり、水飛沫をあげて楽しむ姿を想像するのは難しくありません。しかし、人にも得意不得意があるように、中には泳ぎが苦手なゴルもいるようで…。
-
「イヤだなぁ…」カッパを着せられて雨散歩だと察したラブラドールから漂う哀愁がスゴい。【動画】
いつもは明るい性格のラブですが、たまにはテンションが低くなってしまうことがあるのです。それはお天気が雨の日。お散歩で濡れることがイヤだったり、お散歩に行けず拗ねた姿が子どものようでクスッとしちゃいます!
特集
-
ゴールデン・レトリーバー とは
ゴールデンのからだの特徴や性格、歴史など基本情報をご紹介!
-
ラブラドール・レトリーバー とは
ラブのからだの特徴や性格、歴史など基本情報をご紹介!
-
【特集】新・家術〜進化型家電と、新しい愛情物語
愛犬たちとのかけがえのない生活をもっと楽しく快適に暮らすために。
-
【特集】15歳を目指す健康術
レトが長生きする秘訣は、まだまだ世界中にあふれているはずだ。
-
【特集】レジェンドレトの肖像ー10歳を超えて
-
【マンガ連載】今日も父はレトバカです
-
【特集】ゴルの魅力 vs ラブの引力
それぞれをこよなく愛する人たちが、その思いを存分に語ります!
-
【特集】レト愛が止まらない!
隠れた著名人のレトファンをインタビュー!
-
【特集】レトを迎えたら。
レトを迎えたらしたいこと。アドバイスも!
-
レトリーバー 病気辞典
獣医師監修のRetriever Lifeオリジナル病気辞典。あなたの愛するレトを守るための情報満載
-
レトリーバー里親/保護犬情報
Retriever Lifeでは、保護犬を一頭でも多く救うための活動支援をしています。
-
RETRIEVER LIFEとは
レトリーバーが、好きだから。国内最大級のレトメディア