【取材】TV実話ドラマ『ディロン』飼い主と16頭のゴルの物語-太田恵里「ゴルの魅力VSラブの引力」
セラピードッグとして活躍するゴールデンのディロンの実話が綴られている『ディロン~運命の犬』(井之上こみち著/幻冬舎文庫/2006年5月初版)は、2006年に書籍名と同じタイトルでNHKでドラマ化されました。今回は、ディロンをきっかけに全部で16頭のゴールデンと暮らしてきた太田恵里さんに、現在一緒に暮らしている3頭のゴールデンのエピソードを中心に、ゴル愛を熱く語っていただきます!
16頭の“ゴルまみれ”ライフ
テレビドラマ化された実話『ディロン~運命の犬』のモデルになった太田恵里さんは、結婚してから2022年10月まで、21頭の犬と3匹の猫と暮らしてきました。
「そのうち、16頭がゴールデンです。ディロンも含めて10頭が、セラピー犬として活動。
現在一緒に暮らしているバディは、司法の場で子どもを支える“付添犬”もしています」
そう話す恵里さんのもとには、なぜか自然とゴールデンが集まってきたそうです。

恵里さんが“しのぶ”と初めて出会った日の思い出の1枚
「ドラマにディロン役で出演したゴールデンも、その後10歳を過ぎてからうちの子になりました。
ドラマ続編『運命の犬ふたたび』でサリー役を務めた白っぽいゴールデンは、映画『犬と私の10の約束』のソックス役も演じて、本名はしのぶといいます。
ちなみに、ソックスの子犬時代の役をする予定で実際に“ソックス”と名づけられた子は、結局映画には出なかったんですが、ご縁があって我が家にやってきました。
ほんとうに、ゴルまみれですね(笑)」
恵里さんは、 同じ犬種でもそれぞれ個性的でおもしろいとも語ります。

恵里さんの娘さんの結婚式でのオスカー(左)と、ハードルが得意だったダイナ(右)
中学生を初めて教室まで導いたソックス
恵里さんがよく思い出すのは、10年以上セラピー犬として活躍したソックスのこと。
ソックスは500回以上、セラピー活動に参加しました。
「実はね、今でも気持ちを引きずっているんです。もっとソックスを遊ばせてあげたかったなぁ……、と」
ディロンが有名になってから、恵里さんは講演などに招かれ、優秀なデモンストレーション犬であるソックスと全国各地に出かけました。
「けれど、全部仕事でしたからね。だからソックスがシニアになってから、ほかの犬たちを置いて2度にわたり“最後の旅行”をしたんです。
そのとき、謎の行動が多いソックスらしく、宿のエレベーターにどうしても載りたがらないことがあって。最後まで断固として搭乗拒否(笑)。
どうやら、ほかのワンちゃんのおしっこの臭いが残っていたみたいなんですがね」
ソックスはまた、自宅500m位まで近づくといつも吠え始めるとも。
「自分の家のにおいでもわかるのかしら? ふだんは吠えないのに、不思議です。
ソックスは本当に個性派ですね」

JAHAの訪問活動にて。手前がしのぶと恵里さんで、奥がソックス
そんなソックスは、「いい仕事したね~!」と多くの人に言われるエピソードを持っています。
それは、ある中学校の保健室登校の生徒のもとを訪れた日のことでした。
「ソックスに興味を示した生徒さんに『リードを持ってみる?』と言って握らせたら、保健室を出て行った先生を追って、ソックスがそのまま生徒さんをクラスまで引っ張って行き……。
そうしたら、『あ! 犬と一緒に来た~』とクラスのみんなが歓迎してくれてね。
それ以来、その生徒さんは毎日教室まで通えるようになったそうです」
数々の伝説的なエピソードを残したソックスは、13歳でこの世を去りました。

いつも元気いっぱいのソックス(左)と静かな性格のしのぶ(右)
おすましクールなサンシャイン
太田家には2022年現在、3頭のゴールデンがいます。
そのうちの1頭、おすましキャラのサンシャインは推定7歳。
「繁殖場から、3歳くらいで保護された子です。保護当時は14kgとガリガリ。
食事が足りていなくて、手近な物をなんでもかじっていたと思われ、歯もボロボロです。
保護した日は体臭もすごくて、車の窓を全開にして連れ帰り、翌日被毛を丸刈りをして整えたのを思い出します。
とても劣悪な環境にいましたが、人が好きで性格がよく、ごはんで興奮するとき以外は吠えません。
セラピードッグとして訪問活動に行っても、自宅同様にみなさんの膝にアゴをのせてじっとしているんですよ。
ソックスは家族にもベタベタしない子でしたが、サンシャインは甘えん坊で、とても対照的ですね」

左からバディ、サンシャイン、ソックス。みんなが3歳のときのワンショット
サンシャインとのセラピードッグ活動で、恵里さんは心に深く残っていることがあります。
「犬が大好きなご老人がいらして、セラピー犬の訪問をずっと心待ちにしてされていたんです。
サンシャインがそのご老人のもとに到着すると、ご家族に促されてベッドに上がり、その方の肩に自分のあごをのせ……。
その方はそのまま20分間ずっと、サンシャインを撫で続けていました。
サンシャインが帰ってから30分後、その方は息を引き取られたそうです。
ご家族は最期に犬と触れ合えてよかったと言われ、棺にはサンシャインの写真も入れてくださいました。
このように、犬を待っている方がいるからこそ、私は27年間セラピー犬との活動を続けてきたのだと思います」

現在は体重も20kgあり、元気いっぱいのサンシャイン
トレーニングに苦労した保護犬サニー
現在推定7歳のサニーもまた、元保護犬。
20頭以上のゴールデンが繁殖のために詰め込まれていたコンテナから、サニーは保護されました。
「コンテナの中ではおしっこを垂れ流し生活だったので、自宅ではどこにでも排泄してしまったんですよね。
サニーのトイレトレーニングには、3年かかりました」
このように振り返る恵里さんは、 優良家庭犬協会の“グッドシチズンテスト”という家庭犬向けの認定試験のサブジャッジも務めています。
「サニーはセラピー犬にはならず、家庭犬としての第二の犬生を歩み始めました。
ゴルだったらすべてがセラピー犬に適しているわけではありません。
セラピー活動に適正がある子を、時間をかけてトレーニングしていくのが重要です」

ボールキャッチが得意なサニー
ドッグトレーニングの経験も豊富な恵里さんは、ゴールデンはいつまでも子どもっぽさを残している犬種だと感じるそうです。
「とても個人的な印象ですし、もちろん、個体差はありますけれどね。
それからゴールデン・レトリーバーは、水上に撃ち落された獲物を傷つけずに運んでくる作業を担ってきたので、他犬種と比較するとソフトマウスの子が多め。
このやさしい口の力も、セラピー犬として向いている要素のひとつだと思います。
そして、ゴールデンはお人好しな子が多いという印象を私は持っています。
みんなが自分のことを好きだと確信しているようにも見えますね」
ゴールデンの魅力を次々と語る恵里さんは、そう言いながら笑います。

自宅の敷地内でのびのびと過ごすゴールデンたち
“付添犬”でもあるバディの能力とは!?
現在、司法の場で子どもを支える“付添犬”でもあるバディと恵里さんは、保護犬の譲渡会で出会いました。
「1歳未満だったバディは当時、体重8kgしかなくてスリングに入っていました。
翌月も譲渡先が決まっていなかったので、『よかったら一時預かりをしましょうか?』と申し出たら、『引き取っていただければうれしい』と。
こうしてやってきたバディは、成長の遅れを取り戻すために2歳になるまでパピーフードを食べていました。
今は23kgあり、元気に過ごしていますよ」

保護されて間もない頃のガリガリだったバディ
バディのセラピードッグや“付添犬”としての活動を見てきた恵里さんは、犬には特別な力があると感じているそうです。
「犬にしかできないことがあるんですよね。
バディをはじめセラピー犬になった子たちは、自分を必要としている人がわかるみたい。
その子その子で違う人のところに、スーッと近づいていきます。
そして、一言も話さずその場にいるだけで人を癒す。
このような能力は、人にはないと思います」

太田家に来て間もない頃のバディは、抱っこが大好きな甘えん坊。人と触れ合うのが大好き
三者三様だから、おもしろい!
太田家に今いるゴールデンは同年齢ながら、三者三様で、家族の笑いを誘っています。
「バディもサンシャインも、ボールをキャッチできないんですよ。
とくにバディは、ボールを投げると、ボールと一緒に跳ね上がります。それじゃぁ、ボールが取れるわけないですよね(笑)。
ところがサニーは、空中で横回転してボールをパクっとくわえるんです。
これは笑いではなく、『おぉぉ!』と驚嘆を誘っている感じですね。
私がハンドラーではなかったのですが、サニーはフリスビー大会のボール版みたいな競技に出場して、入賞したこともあるんですよ」
そんな抜群の運動神経を誇るサニーちゃんは、野性的な面が強いのか、恵里さん自作の洋服を着せたらとビリビリに破いたこともあるそう。
「『なんだコレはーっ!』という文句がサニーの顔に浮かんで見えます(笑)。
逆にサンシャインは、ウェアを着せるとおすまし顔で満足そう。
そうそう、サンシャインは、ほかの子たちと違って笑顔を見せないんですよね。
バディはいつもヘラヘラ顔なんですが。それぞれ個性が違ってかわいいです」

コロナ禍で訪問活動ができず、洋服を作るのが趣味になったという恵里さん自作の犬用着物を着ておすまし顔のサンシャイン
50年近くゴールデンまみれの毎日を送ってきた恵里さんの今の願いは、一緒に暮らすゴールデンたちに楽しい毎日を過ごしてもらうこと。
「今年の秋は、初めて海に連れて行く計画です。
これまでのゴルでも、ライフジャケットをつけて練習しても泳げない子もいましたし、レトリーバーだからみんな生まれつき泳げるわけではないんですよね。
今回の目的は、泳ぐことではなく、近くで海を見せることと、砂浜や波打ち際に行くこと。
少し怖がりなバディをはじめ、犬たちが波打ち際でどんな顔をするか楽しみです」
たくさんの人の心を癒してきた太田家のゴールデンたちは、家族や出会った人に愛情と感謝をたっぷり注がれ、これからもまた、幸せで満ち足りた気持ちいっぱいに過ごしていくに違いありません。

太田家のお孫さんはいつもディロン(後方)とソックス(前方)にくっついて育ちました
『ディロン~運命の犬』のブックレビューはこちら
【ブックレビュー】『ディロン~運命の犬』セラピー犬になったゴルの実話
執筆者:臼井京音
ドッグライター・写真家として約20年間、世界の犬事情を取材。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、家庭犬のしつけインストラクターや犬の幼稚園UrbanPaws(2017年閉園)の園長としても活動。犬専門誌をはじめ新聞連載や週刊誌などでの執筆多数。
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