【取材】盲導犬候補生の子犬との笑顔あふれる甘~い毎日―特集「ゴルの魅力VSラブの引力」
2020年の春、松本さん家族のもとに、約18年ぶりに生後2ヵ月のラブラドールレトリーバーがやって来ました。実はこのパンジーちゃん(仮名)は盲導犬候補。今回は、子犬の飼育、盲導犬の候補犬の繁殖、盲導犬リタイア犬の飼育と、盲導犬のボランティアにかかわり続けた松本さん夫妻のストーリーを紹介します。
還暦の今だから、パピーを迎えよう!?
2019年の夏に還暦を迎えたのを機に、松本裕さんは会社を退職したと言います。
「急に辞めると伝えられて驚きました。でもそれは、また盲導犬を目指す子犬の飼育ボランティアをしたかったからかもしれませんね」と、妻の明子さんは笑います。
「ハハハ。息子が成人した頃からは、妻も私も仕事が忙しくて自宅で過ごす時間が少なく、犬と暮らす余裕もありませんでした。退職すれば、犬と過ごす時間はたっぷり作れますからね」と、裕さん。

生後4ヵ月のパンジーちゃん
松本さんは、横浜市内に一軒家を構えて数年が過ぎた2000年から、『公益財団法人アイメイト協会』のボランティアで、盲導犬の両親となる犬を協会から預かり、出産から生後2ヵ月まで世話をする“繁殖奉仕”や、盲導犬候補の子犬を預かったり盲導犬を引退した犬を迎え入れる“飼育奉仕”に携わってきました。
最初は子犬を預かり、その後に繁殖犬を飼育。
また繁殖犬がいた時期に迎えたリタイア犬は、10歳で盲導犬を引退したのち、15歳目前までの余生を過ごしたそうです。
繁殖犬のクリスタルちゃんも、繁殖引退後はリタイア犬のレナードくんと仲良く過ごし、16歳の天寿をまっとうしたと言います。

遊びながら子犬に授乳するクリスタルちゃん
「自分の歳を考えた時、犬と長い年月をともに過ごすことになる、“繁殖奉仕”や“リタイア犬奉仕”はむずかしいと感じました。
母犬の助産や複数の子犬の飼育サポートをしたり、老犬の介護をしたりするには私たちの体力も必要です。
いっぽう、1頭の子犬を約1年間育てるならば、還暦世代でも不安はありません」と、裕さんは語ります。
こうして、4年ぶりに松本家にラブラドールレトリーバーのパンジーちゃんがやって来たのです。

松本家に到着して間もない頃のパンジーちゃん
おてんばで最強の甘えん坊がやって来た
松本さん家族にとっては、パンジーちゃんは3頭目となる盲導犬候補生の子犬。
明子さんによると、パンジーちゃんはかなりのおてんば娘で、明るい性格だそうです。
そんなパンジーちゃんがハマっている遊びは、庭に落ちている枝をガジガジとかじることだとか。
「長い枝を咥えたまま仰向けになっていたり、ヨタヨタ持ち歩く姿を見ていると、笑わずにはいられません」と、裕さんは言います。

パンジーちゃんは木の枝に興味津々
パンジーちゃんはかまってもらうのが大好きで、いつも人のそばにくっついて甘えるとも。
「夫が頭の後ろで手を組んでテレビを観ていると、パンジーは『ねぇねぇ、お父しゃん、腕枕ちょうだい』と、夫の腕を自分の前足で引き寄せようとするんです。必ず(笑)」
松本さん夫妻は、パンジーちゃんはこれまでで最強の甘えん坊だとも語ります。

「ねぇねぇ、その腕を下ろしてよ」

「うん。これでいいの。アタチ大満足よ」
理解力が高く、ほとんど吠えない
盲導犬候補の子犬を育てていると、松本さん夫妻はその理解力の高さに毎回驚かされると言います。
「トイレは、我が家に到着して数日間でどの子犬も覚えてしまいます。なかでも、2日目にして7割の成功率をたたき出したパンジーは、かなり優秀ですね」
盲導犬になるための訓練は1歳2ヵ月を過ぎてアイメイト協会に戻ってから行います。
預かっている間にどのようなトレーニングをするかは盲導犬の育成団体によって異なり、アイメイト協会の場合は、犬と一緒に暮らす上で必要なしつけはそれぞれの家庭で教えるそうです。
パンジーちゃんは“マテ”や“オスワリ”を、驚くほどの速さでマスターしたとのこと。
「パンジーはすごく頭がいいし慎重で頭がいいから、きっと盲導犬にも向いているんじゃないかな」と、松本さん夫妻は口を揃えます。

「爪切りでしゅか? 大丈夫ですよ」というような余裕を見せるパンジーちゃん
「盲導犬として活躍してきたラブラドールレトリーバーの血筋だからだと思いますが、我が家で過ごしたコたちはみんな穏やかで、些細なことには動じず、めったに吠えません」とも、明子さんは語ります。
ラブを育てたことがあれば、アイメイト候補の子犬は気質が安定していて手がかからないという印象を抱く方が多いかもしれません。
アイメイト協会が盲導犬に求めるのは、明るく、細やかで、臆病過ぎず、陰ひなたがない資質だそうです。
飼育期間が約1年と決まっているのも、まだまだ元気で犬との生活を楽しめるシニア世代に、子犬を飼育するボランティアが向いている理由のひとつだと言えるでしょう。
「とはいえ、パピーはパピー。“飼育奉仕”2頭目のコはイタズラ好きで、誤って息子のおもちゃのLEGOを飲み込んでしまって……。とても心配しましたが、うんちで出てきた時はほっとしました。気づかぬうちにかじられたじゅうたんが、段々と小さくなっていったりもしましたね(笑)」(裕さん)

松本家で初めてのシャンプーもなんのその。気持ち良さそうにしていました
盲導犬の毎日は充実している
松本さんには、実際に盲導犬と暮らす親戚もいるそうです。
「盲導犬は過酷な仕事でかわいそうだと、実態を知らずに言う人もいます。
けれども、4児の母である親戚のもとで暮らしてきた4頭の盲導犬などを見ていると、ハーネス装着時には仕事モードになりますが、ハーネスを取ればスイッチはオフになり、ゴロゴロとくつろいだり、横になって眠ったり、遊んだり……。
家族にも甘えますし、留守番やペットホテルとも無縁で、大好きなパートナーといつも一緒にいられてとても幸せそうです」(裕さん)

ひなたぼっこをしながら庭でのびのび過ごすパンジーちゃん
ラブラドールレトリーバーは、人との共同作業に喜びを感じる犬種です。
盲導犬として働くレトリーバーは、高い作業欲求と、いつも人に寄り添っていたいという欲求を満たせて、充足した日々を送っているのではないでしょうか。
健康管理が行き届き、パートナーとの生活を楽しんでいるため、盲導犬は家庭犬のレトリーバーよりも寿命が長い傾向にあるという調査報告もあります。

松本家で以前産まれた子犬のほとんどが、盲導犬になりました
別れの日は希望を抱いて
子犬に必要なワクチン接種がすべて済み、パンジーちゃんと散歩できる日が来るのを、裕さんは心待ちにしています。
新型コロナウイルス感染症に関わる日本の状況が落ち着いたら、別荘にも連れて行き、大自然の中でパンジーちゃんと遊ぶのを楽しみにしているそうです。
「“飼育奉仕”の務めは、とにかく子犬に愛情を注ぐこと。家族の一員として、たくさんの楽しい経験を積ませてあげることが大切なんですよ」(明子さん)
パンジーちゃんとの生活はまだ始まったばかり。とはいえ、1年もすればアイメイト協会へと旅立つ日がやって来ます。
「よく、1年間ともに過ごした犬との別れは淋しくないかと聞かれます。実際は淋しい気持ちよりも、新しい一歩を踏み出す犬を応援する気持ちのほうが大きいんですよ」と、明子さんは言います。
「パンジーが旅立っても、また次に盲導犬候補の子犬がやってくる予定だというのもありますけどね」(裕さん)

椅子の上で家族の様子を見つめるパンジーちゃん
これまで、裕さんは日本スピッツ、マルチーズ、柴犬と、明子さんはイングリッシュ・セターと暮らしたことがあるそうです。
「ラブラドールは、甘えん坊で朗らかで表情豊かで活発で……。最高に魅力的な犬種です」
そう語る松本さん夫妻のそばに近づいてきたパンジーちゃんは「アタシを見てよぉ~」とばかりにボディタッチをしてアピール。
「うんうん、パンジーは最高にかわいいよ」と、松本さん夫妻は目を細めていました。
※アイメイト協会では、視覚障害者の歩行をサポートする犬をアイメイトと呼んでいますが、本記事では盲導犬と表記しました。
公益財団法人アイメイト協会 ホームページ:https://www.eyemate.org/
執筆者:臼井京音
ドッグライター・写真家として約20年間、世界の犬事情を取材。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、家庭犬のしつけインストラクターや犬の幼稚園UrbanPaws(2017年閉園)の園長としても活動。犬専門誌をはじめ新聞連載や週刊誌などでの執筆多数。
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