『においがした』ーマンボウやしろ#1[ゴルの魅力VSラブの引力!]
大のラブラドールレトリーバー好きとして知られる、マンボウやしろさん。2019年2月には当メディアでも取材をさせていただき、ラブラドール愛を存分に語っていただきました。 そんなマンボウやしろさんに、連載という形で『ラブの引力』をお届けしてもらいます。 #1は、ご自身が初めてラブラドールレトリーバーを迎えたときのエピソード。 現在は、演出家・脚本家としても活躍するマンボウやしろさんによる読み応え抜群の連載が、本日よりスタートです。
昭和を共に生きた雑種「ララ」
僕は1976年生まれで、千葉県の最南端・館山というところで育った。実家の寿司屋では僕が産まれた時から犬がいた。名前はララといい、とても大人しいメスの雑種だ。
まだまだ昭和の香りが強く残っている時代の田舎なので、近所の犬同様、ララも放し飼いで飼われていた。とはいえ臆病な犬なのでほぼ家の周りをウロウロするだけ。
僕が小学校6年生だったある日、友達の家から帰ってくると母も姉も泣いていた。家の駐車場で寝ていたララが事故で死んでしまったのだ。その日の夜、近所のララの友達の犬達が遅くまで遠吠えしていたのを覚えている。犬に紛れて僕もずっと泣いた。
翌日、事故を起こしてしまった人が謝罪に来たが、手にはカブトムシ2匹を持っていた。放し飼いをしていたうちにも非があることを知っていた父は、申し訳ないがカブトムシは持って帰ってくれと伝え、それで全て終わりにした。
僕はカブトムシが好きだったし命の数ならララの1つよりも2匹の昆虫の方が多いことは知っていたけど、ララの代わりはヘラクレスカブトムシだって無理だ。
これを読んでいる方ならばわかると思いますが、血は繋がってなくても心が繋がった家族を失った悲しみは深く、4人で話し合いもう犬は飼わないと決めた。
「ラブラドールを飼おう」父の宣言
数ヶ月が流れ、父が外から帰ってきていきなり「やっぱり犬を飼うぞ! いいな?」と言った。ララを忘れたわけじゃないけど、家族全員満場の一致だった。ララを裏切るようで誰も言い出せなかっただけで、本当は4人とも心のどこかが寂しくて、生活に何かが足りないと感じていたんだと思う。
父はラブラドールレトリーバーを飼うことを全員に宣言。今から30年以上前の話であり、僕も母も姉もピンとこなかった。盲導犬の犬だよと説明を受けてすぐに頭に浮かんだけども、え? なんで田舎の寿司屋で洋犬? と強く疑問を抱いたことだけ記憶している。
知り合いのペットショップの御主人に「今、流行りだしていて、これからブームになりますよ」と言われ、写真を見て父はすぐに心を奪われたらしい。
そこからの1ヶ月は犬がやってくるのが待ち遠しくて、毎日毎日ワクワクした気持ちで学校から帰ってきていた。部活を終えて自転車飛ばして帰ってくる僕は中学生になっていた。
そんなある夜に1階の応接間で父は麻雀をしていて、2階で僕と姉と母はテレビを見ていた。すると、下から2階に向かって父が叫んだ。
「おーい、今度来る犬の名前は、ロンに決めたぞ!!」気が早いw 家に来てから、顔を見て決めてあげればいいのに、何故に来る前に決めてしまうのか? しかも、麻雀用語であることは家族全員理解していた。
麻雀しながら決めるかね? しかもロン。可愛いからいいけど、ツモ(自分の力であがること)じゃなくてロン(他人が捨てたものであがること)である。
自分で『ロン!』と口にして決めたのか? それとも誰かが言った『ロン!』を聞いて響きが気に入ったのか? それは今となってはわからないけど、なんかすでに家に来る前からギャンブルの専門用語ついてるの可哀想であるw
ロン、わが家へようこそ
そうしてついに小さな生き物が家にやってきた。千葉の南部の片田舎のお寿司屋に、その当時だとまだまだ珍しかったラブラドールレトリーバーがやってきた。やってきてくれた。ようこそ我が家へ!!!
ロンは家に来た時からロンだった。そう、家に来る前から君はもうロンだったんだよ。本当に可愛くて可愛くて、当たり前のようにその日からロンが家族の主役になった。末っ子長男だった僕の立場は完全にロンのものだ。
ロンはイエローだったのだけども、後で知った話だが実は父がペットショップに頼んだのはブラックだったらしい。父は話が違う! とすごく怒ったらしいが、向こうは向こうで戻すこともできず、結局父は向こうから提案された『割引』で手を打ったらしい。
なんかもうグダグダです。スタートからグダグダです。1980年代の田舎です。そうです。まだまだそういうユルい時代でした。
今思うと、この時に交換してもらわなくて心底良かったと思います。振り返ってみると、ロンは父と1番キズナが深かったと思います。
ラブラドールのくせにバカっぽくて、でも基本的には賢い犬種で、しかし結局はお馬鹿さんでした。
犬の習性だと聞きましたが、家族で1番若い僕は気がついたらロンにバカにされてましたし、父ととてつもないハードな散歩を繰り広げ異様な筋力を手にしますし、母とは主従関係ではなく親友みたいになり喧嘩してましたし、本当に様々なエピソードを残してくれました。
ロンが初めて我が家にやってきた1988年のあの日、ブラックじゃなくてイエローだったり麻雀から名前つけられたり、これから起こる色々な事件の不穏な臭いがすでにしてましたが、同時に、これから始まる楽しい楽しい時間の予感の匂いが、家と僕ら家族を包んでいました。
あの日、君の小さな黒い目からは僕の家はどう映ったのかな?
未来はどうなるかわからないけれど
1回目の今回はラブラドールが初めて家に来た日のことを、退化し始めた脳にムチ打って思い出しながら書いてみましたw
僕は、あの日からずっとロンが好きで、同時にラブラドールレトリーバーを心の底から愛しています。街で見ると嬉しくて声が出てしまいます。触りたいけど言い出せなくて毎回挙動不審になります。
今の僕の夢は、仕事で成功することでもお金持ちでも結婚でもなく、もう1度ラブラドールと共に生きることです。
そういう自分の気持ちや、ラブラドールの可愛さや、ロンのエピソードなんかを気楽にニヤニヤしながら書いていけたらなと考えています。
全部で何回になるか今は全く想像つきませんし、意外と書けることなくて3回くらいで終わるかもしれませんw もしくは、急にラブを飼えることになって10年くらい書き続けるかもしれません。
未来はどうなるかわかりませんが、とにかく今あるレトリーバー愛を書けるだけ書きますので、よろしくお願いします。
マンボウやしろ
元お笑い芸人。1997年よりお笑いコンビ「カリカ」として活動し、2011年に解散。その後ピン芸人を経て2016年に芸人を引退。現在はラジオパーソナリティ、演出家、脚本家、MCなど多方面で活躍中。
Twitter:https://twitter.com/manbouyashiro
メルマガ:マンボウやしろの『死ぬまで生きます』
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