2020年9月18日4,737 ビュー View

『犬って本当に凄い!』ーマンボウやしろ#15[ゴルの魅力VSラブの引力!]

大のラブラドールレトリーバー好きとして知られる、マンボウやしろさん。そんなマンボウやしろさんに、ラブラドールの魅力と思い出を存分につづっていただく連載。

 

#15は、『犬って本当に凄い!』と思えた一番の思い出について。

その思い出とは、マンボウやしろさんがいつか絵本にしたいと思っているほどに印象深い出来事で、いつか自分も経験するであろう、大切な人との『永遠の別れ』を経験した時に見せた、愛レト・イエローラブのロンの行動に、いろんな意味で感情が揺さぶられたそうです。

『犬』って、本当に凄い存在だ

レトリーバー,マンボウやしろ

Phil's Mommy/shutterstock

 

今回は僕が人生で1番「犬って凄いな~」って思った事件です。驚いたり怒ったり笑ったり、感情大忙しのエピソードを書かせてもらいます。

 

ちょっと暗い内容に感じる方もいるかもですが、どうか最後まで読んでいただきたいです。

 

1980年代の後半に千葉県の田舎の寿司屋に、何故かやってきてしまったラブラドールレトリーバーのイエローのロン(オス)。

 

ロンはパパが大好き。僕の言うことなんて何もきかないのに、父の指示には嬉しそうに尻尾振って全部服従。

レトリーバー,マンボウやしろ

Jaromir Chalabala/shutterstock

 

誰かが帰ってきたらいつだって嬉しそうなリアクションしてくれるけど、父が帰ってきた時だけは心身全開で大喜び!

 

部屋に父がいれば、ずっとそちらを見て機嫌を伺っている。

 

犬は賢いから誰が家長か理解してる。で、父もロンが大好き(笑)。

 

それは、突然の出来事だった

レトリーバー,マンボウやしろ

Jaromir Chalabala/shutterstock

 

1997年僕は姉と東京に住んでいた。ある夜、母も東京の祖父のところに来ていたので父とロンだけが千葉の家にいた。

 

夜中に電話が来て父の死を聞く。

 

「家族が3人になりました」…母が僕らに言った言葉。

 

親戚のおじさんが車を出してくれて、僕ら3人は暗い千葉の道を南へ南へと向かった。

 

この辺から数時間の記憶があまりない。

レトリーバー,マンボウやしろ

Marina Anishchenko/shutterstock

 

僕は20歳だったのでもう大人だけど、心臓が原因で急死だったので頭の中で整理できていなかったのかもしれない。

 

通夜が終わり、3人になった家族は父の枕元の線香を絶やさないように起きていた。翌日は火葬されてしまいお別れになる。

 

誰かが言った「ロンもちゃんとパパとお別れしたほうが良い」。

レトリーバー,マンボウやしろ

manushot/shutterstock

 

庭と家の間の引き戸を開けるとロンが静かに座っていた。

 

普段の様子とは、全然違った

いつもは「おいで」と呼び込まなくても勝手にブンブン身体を躍動させて入ってきてしまうのに、何度呼んでもロンは座ったままで家には入ってこない。

 

部屋の中から笑い声が聞こえれば、庭でギャンギャン泣いて、犬にとって大事な鼻から血を流してでも鼻先で引き戸を開けようとしていたロンが、無理矢理部屋にあげようとしても、全く入ってこない。

レトリーバー,マンボウやしろ

Jaromir Chalabala/shutterstock

 

庭のロンから見ると部屋の1番奥には、父が布団で寝ている。

 

息をしていない父の匂いはすでに生きていた時とは違う匂いなんだろうか?

初めて経験する事態にロンは戸惑っていたのかもしれない。

 

家族の異変に何かを感じているロンに僕らは気をつかい、引き戸を開けたままロンを呼ばずに普通に振舞うことにした。

レトリーバー,マンボウやしろ

Kseniia Grigoreva/shutterstock

 

その時の僕は「犬って凄いな」と考えていた。そして、犬もやっぱり家族なんだと思い涙をこらえていた。

 

この時の僕の「犬って凄いな」なんて気持ちは、まだまだ序の口だって事を数時間後に嫌ってほどにロンに教えられる。

 

皆様、どうかハンカチの用意を

 

ロンがとった「とある」行動

レトリーバー,マンボウやしろ

Nicollas Martins Falat/shutterstock

 

2時間ほど経過した時、静かにロンが部屋の中に入ってきた。

 

しかし、ロンは父から1番離れた部屋の隅で、ずっと下を向いて座ったまま。

誰が呼んでも、またも反応なし。

 

そこからまたしばらく静かな時間が流れて、ロンが動き出した。

 

近づいてはいけない何かに向かうように、ゆっくりゆっくりロンは父に近づいていった。

レトリーバー,マンボウやしろ

Jaromir Chalabala/shutterstock

 

ロンが1歩1歩をこんなに慎重に歩いている姿を僕は初めて見た。

 

父のところまで行き、枕元できちんとお座りしているロン。

 

お別れの言葉でも言っているのか?

レトリーバー,マンボウやしろ

Landon McCluskey2018/shutterstock

 

そんな事を僕が考えていると、ロンは申し訳なさそうにどこか悲しげな顔で頭を下げ始めて、父の枕元にあった寿司1カンをパクり。

 

え? そういうのありなの?

食べるの? ちょっと待って待って待って!!

 

こっちからしたらロンが父の体にお手をしたり、クウーンなんて小さく鳴いて顔なんかをなめたら号泣する準備は出来ていたのに!!

 

寿司食うかね(笑)? 寿司屋の犬だけど!

 

このタイミングで申し訳なそうにつまみ食いするかね?

レトリーバー,マンボウやしろ

M Janine Potocki/shutterstock

 

人間の勝手な物語や、人間の勝手な期待なんか微塵も関係なく、犬はキッチリとどんな時でも野生を見せてくれる。犬って凄い!!

 

もちろん人間の希望なんて全く意味などないことなんてわかっている!

 

だけど、なんか期待しちゃったんですよ!

僕は感動的なお別れを想像しちゃったんですよ!!

 

犬を飼ったことがある読者の方ならば僕のこの気持ち理解してくれますよね(笑)?

レトリーバー,マンボウやしろ

Jaromir Chalabala/shutterstock

 

つまみ食いしたんだからいつも通り僕らに怒られるロンだけど、確実に違う感情も乗っかって僕らはロンを怒ったし、ロンに呆れたし、そしてやっぱりうちにきてくれたのがロンで良かったと思った。

 

ラブラドールって家族の中ではひょうきん者の役割だし、父も確実に笑ってると思えたし、僕らも怒りはしたけど、結局は笑ってしまった。犬って凄い!!

レトリーバー,マンボウやしろ

Dmitry Tkachuk/shutterstock

 

こんな時にでも場を和ませる空気持ってるし、いつもいつも笑いを提供してくれてる。

 

本当に犬って凄い!!

 

結局は、ロンに救われた

レトリーバー,マンボウやしろ

invisible invisible/shutterstock

 

僕はずっと前からこのエピソードで『パパとロンちゃん』っていうタイトルの絵本を出したいんですけど、先日漫画『大家さんと僕』の作者で同期の芸人の矢部太郎君と食事した際に真剣に頼んだら、

 

「え? 最後にお寿司食べるんですか?」「面白いでしょ? 実話なの」「絵本をバカにしてます?」

 

と少し真面目に怒られました(笑)。

 

ちゃんと感動する絵本をまずは出してからにしてください、と言われてしまいました。ごもっともで笑ってしまいました。

レトリーバー,マンボウやしろ

Chayatorn Laorattanavech/shutterstock

 

父が死んで、もしもロンがワンワンエンエンと鳴いていたら、それはそれでつらくて耐えられなかったと思います。

 

寿司を食ってくれて良かったんです。

今思うとそれ以上の答えってないかもしれない。

 

あれから23年経って、今改めて犬って凄いな~と思いながら書いております。

 

マンボウやしろ

ラブラドールレトリーバー,マンボウやしろ

元お笑い芸人。1997年よりお笑いコンビ「カリカ」として活動し、2011年に解散。その後ピン芸人を経て2016年に芸人を引退。現在はラジオパーソナリティ、演出家、脚本家、MCなど多方面で活躍中。

Twitter:https://twitter.com/manbouyashiro

メルマガ:マンボウやしろの『死ぬまで生きます』

 

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