【取材】3度の肥満細胞腫を乗り越えた16歳。ママとの「たくさんの会話」で今日も心地よく暮らす #6 ナラ
平均寿命が10〜12歳と言われる大型犬のレトリーバーたち。しかしそんな平均を物ともせず、年齢を重ねても元気なレトリーバーを憧れと敬意を込めて“レジェンドレトリーバー”と呼んでいるRetriever life。その元気の秘訣をオーナーさんに伺うのが、特集『レジェンドレトリーバーの肖像』です。
今回は16歳のレジェンド、ナラちゃんが登場します。肥満細胞腫のため3回の手術を経験してもなお、散歩が好きで力強く生きるその秘訣とは。
目次
ナラちゃんのプロフィール
年齢&性別
16歳の女の子(2005年5月4日生まれ)
体重
24kg
大好きなこと
食べること、寝ること。川や湖、プールでの水遊び。12歳くらいまでは、ボール遊びが大好きでした。
既往歴
・2歳のころ、お友達のボールを誤飲し開腹手術。
・7歳のころ、肥満細胞腫に。9歳、10歳で再発し、計3回の手術を経験。3回目の手術後に放射線治療を受け、その後再発はなし。
・16歳で子宮蓄膿症を発症。年齢によるリスクを考慮し、手術はせず投薬治療を選択。現在は薬で安定。
人も犬も大好きで天真爛漫な女の子
くるくるっとカールした体毛がチャーミングなナラちゃん。フラットコーテッドレトリバーに間違われることもあるそうですが、ラブラドールレトリーバーの女の子です。
アゴのあたりにちょっぴり白い毛が混じってきてはいるものの、真っ黒な体毛はビロードのようなツヤがあり、16歳とは思えない若々しさ。
オーナーの井上育枝さんご一家は、ナラちゃんと、ナラちゃんの娘のキアラちゃん(10歳)、息子のクリスくん(10歳)の、黒ラブ3頭と暮らしています。
若い頃はおてんばだったナラちゃんは、お散歩中にすれ違う人みんながお友達のような感覚で、「遊んで♪」と飛びつく天真爛漫な女の子でした。
元気すぎる余り、井上さんは「半分ノイローゼになりそうでした」と苦笑いしますが、かかりつけ医のしつけ教室に参加してからは意思の疎通ができるようになったそうです。
お友達とケンカすることもないやさしい性格のナラちゃんですが、若い頃はいたずらっこな一面も。
「当時新築だった自宅玄関の上がり框(かまち)を下あごでガリガリしてポッカリ穴を開けてしまったり、新品のブーツや来客の靴をボロボロにしてしまったり……」。
以来、脱いだ靴はナラちゃんが届かないところに置くのが井上家の鉄則に。
「ナラは自我が強かったので、いけないことをしたときに私が馬乗りになって叱ったことも3回くらいありました(笑)。ナラを叩くことは絶対にしませんでしたが、床をパシッと叩いて“いけない!”と叱りました」。
ナラちゃんをしっかりしつけたからか、ナラちゃんの子どもたちは同じようないたずらをしたことはなく、叱ることは少なかったそうです。
3回の肥満細胞腫手術で放射線治療も
ボール遊びが大好きなナラちゃんですが、2歳のころお友達のボールを誤飲し、手術した経験が。
「くしゃっとラグビーボールのようにつぶれて、そのまま飲み込んだんです。
すぐに病院へ連れて行きましたが、獣医さんから“吐き出す場合があるので、2日間ほど様子を見ましょう”と言われ…、結局吐き出さないので開腹手術をしました」。
それからはボールで遊ぶときは、ボールの材質をよく確認するようになったそうです。
7歳のときには、自宅でのシャンプー中、左後ろ足のおしりのあたりに1センチほどのしこりを発見。
細胞診で肥満細胞腫という皮膚にできる癌と判明し、紹介された大学病院で切除手術をしました。
その後、9歳のときに左肩、10歳のときには左ひじに再び肥満細胞腫ができて、計3回もの手術を経験。
3回目のときには癌のステージが上がっていたため、大学病院の先生の勧めで術後に放射線治療も受けました。
「こういうことがあるんだとわかってからは、シャンプーだけでなく、普段のスキンシップのときも、体をなでながらチェックするようにしています」。
以来、16歳になった今も再発はしていません。
日頃のボディケアで、オーナーさんが些細な異変に気づき、病気を発見できることが多々あります。
何げないスキンシップの中でも、自然にチェックすることを習慣にしたいですね。
おしっこにドロッとした膿のようなものが
その後大きなトラブルはなく元気に過ごしていましたが、16歳を目前にした今年の春のこと。
「以前は、トイレはお散歩に出たときだけ。家の中でしたくなったときはベランダに出してほしいというしぐさをするので、ベランダのトイレでしていました」。
そんなある日、おしっこにドロッとした膿のようなものが混ざっているのに気が付きます。そのおしっこを持って病院へ行くと、子宮蓄膿症との診断でした。
かかりつけ医からは「10人の獣医が10人とも手術だと言うような状況」と言われるほど病状は深刻。
「でもナラは弱っているふうでもなく、高齢だし、腎臓の値もあまりよくなくて。先生は“手術もリスクが高いのであまり勧めたくない”と」。
そこで家族で相談して、手術はしない決断をしました。
抗生剤などの投薬治療のみを続けて3カ月経ちましたが、今は体調も落ち着いていて、病院の先生も驚くほどだそうです。
朝晩のお散歩でシニアとは思えない筋肉量をキープ
ごはんは、年齢に応じてブリーダーさんに勧められたフードをあげてきました。
「シニアになってからは腎臓の数値があまりよくないので、フードにプラスして、病院で処方された腎臓のサプリメントをふりかけています」。
また、日々の生活で大切にしているのはお散歩。
朝は40~50分、夕方は1時間半くらい。台風などのひどい悪天候の日は短縮しますが、雨の日もカッパを着せて出かけます。
若いころと比べると少しやせ、筋肉も落ちてしまいましたが、それでもこのお散歩のおかげか、定期健診では「この年で、これだけの筋肉があるのは偉いね」と先生からほめられるほど。
お散歩はナラちゃんのみ、子どもたちと、別々に行きます。お散歩では、信号や道路を渡るときに、手前で必ず一旦座らせるようにしっかり訓練してきました。
「今も道を渡るときにはスッと座ります。道の反対側に知っている人を見つけたときに、もし突然走り出して、そこに車が来たら私にも犬にも危険が伴いますからね。
今思えば、可愛がるときはめちゃめちゃ可愛がって、叱るときはブレずにしっかり叱ってきたのが良かったのかもしれません」。
黒ラブ3頭を連れての家族旅行が刺激に
コロナ禍以前は、3頭を連れてよく旅行にも出かけていました。
「車は3頭が乗れることを考えて選びました。子どもたちはそれぞれケージに入れてハッチバックに、ナラは後部座席の足元にいます」。
小さいころから車で遠出をしていたので、3頭ともドライブには慣れているそうです。
おっとりして甘えん坊のキアラちゃんと、おやつよりボールが大好きなクリスくんも、実は2頭とも10歳とシニア。
しかしまだまだ元気いっぱいでじゃれ合う様子は、まるでパピー同士のようです。
「クリスは運動が好きでもともと太りにくい体質なので、痩せないようごはんを増やし、逆にキーちゃんはあまり運動をしないので、太らないようにやや少なめに調整するくらいで、特に健康上の問題はありません」。
旅行で知らない場所に行ったり、つねに遊び相手がいる刺激的な生活も、ご長寿の秘訣かもしれませんね。
しゃべれなくても意志の疎通はできる
「犬はしゃべれないけれど、話しかけると3頭ともこちらの言葉がわかっているような気がします」と井上さん。
「よく“ナラがこう言ったんだよね”とか“クリスがこう言ってるよ?”って言うと、主人やお友達から“犬はしゃべらないよ”って言われちゃうんですけど(笑)、表情やしぐさで、思っていることやどういう状況かわかる気がするんです」。
お散歩の途中にも、井上さんはよくナラちゃんに話しかけるそう。そんな井上さんの顔を、ナラちゃんも覗き込むように見上げます。
「おやつを買うペットショップの名前を言うと、“じゃ、こっちだよね♪”って、その方向に歩き出したり、“もう帰ろうよ~”って顔をするときもあります。
一緒に散歩していた母が、“しょっちゅう顔を見るね”って感心するくらいです」。
そんな井上さんが考える長寿の秘訣は「ストレスをためないこと」だそう。
毎日のお散歩と、井上さん家族とのコミュニケーションで、犬たちが快適に暮らせるように心がけてきました。
「3頭のお散歩も“大変ね”ってよく言われるんですけど、お散歩は私の癒しの時間なんです。体力的には厳しいですけれど(笑)、気持ちの面では癒されています」。
もちろん、フローリングにカーペットを敷いたり、段差に気を付けたり、目が悪くなってきたナラちゃんのために夜も明かりをつけておいたり、身体的なストレスがないよう細かな目配りも欠かしません。
そんな井上さんは今、ナラちゃんに「我が家に来てくれてありがとう!」と感謝の気持ちを伝えたいそうです。
「私の人生に犬と暮らした時代があるのは、幸せなこと。3頭が元気にいてくれている時間が少しでも長く続いてくれたらいいなって、毎日お散歩をしながら思っています」。
笑顔いっぱいで、仲良しな黒ラブ親子との暮らしをそう語ってくださった井上さん。
これからも3頭との癒やし癒やされる日々が長く続きますように。
取材・文/都丸優子
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