【取材】介助犬のPR犬だった“ゴールデン似のラブラドール”とは!? -「ゴルの魅力VSラブの引力」
東京都内に暮らす加藤涼子さんの現在の愛犬は、介助犬の元PRドッグのヨーゼフくん。ラブラドールとゴールデンのミックスであるヨーゼフくんとのエピソードはもちろん、これまで日本介助犬協会の預かりボランティアとして関わった黒ラブなど、個性的で魅力あふれる4頭のレトリーバーとの思い出を、たっぷり語ってもらいました。その中で、加藤さんの人生を大きく変えたグッデイちゃんとは……?
介助犬のPRドッグだったラブゴルMIX
「お宅のラブラドールって、ゴールデンっぽいですよね」
都内在住の加藤涼子さんは、2022年現在13歳の愛犬ヨーゼフくんについて、何度もこう言われたそうです。
「それもそのはず。だって、ラブラドールとゴールデンのミックスですから(笑)」とのこと。
ヨーゼフくんがまとう被毛はほとんどが短毛ですが、首や背中に長毛が混じっているのと、ラブラドールより長めのすらっとした四肢が、英国系のゴールデンを彷彿とさせます。
人間でいえばモデルのようなスタイルが目を引くヨーゼフくんは、社会福祉法人 日本介助犬協会のPR犬として活躍していました。
「5歳で協会のPR犬を引退したあとも、補助犬の講習会のお手伝いで小学校などに行ったりしています。介助犬の仕事のデモンストレーション後は、子どもたちとの触れ合いタイムがあるのですが、いつも大行列でアイドルの握手会みたいなんですよ。
満足そうな顔をしているヨーゼフ自身も、まさにアイドルのような気分なんじゃないかな?」とも、加藤さんは笑います。
介助犬は、身体が不自由な方の生活サポートをする補助犬の一種。
手や足に障がいがあるユーザーの着替えを手伝ったり、ユーザーが必要な物や落ちた物を取って運んだり、ドアの開閉をしたり、エレベーターなどのスイッチを押したり……。
室内外を問わず、いつもユーザーをそばで支えています。
「レトリーバーはもともと、猟師が撃ち落した獲物を回収して運ぶのが仕事でしたからね。拾ってくわえて運ぶという動作が自然にできる点で、介助犬に向いている犬種だと思います」(加藤さん)
子犬の預かりボランティアからスタート
加藤さんと日本介助犬協会のつながりがスタートしたのは、友人の紹介がきっかけでした。
「シェットランド・シープ・ドッグを実家で飼っていた頃、生まれた子犬を育てた経験もありますし、結婚してからも早く犬と暮らしたいと願っていましたね。
念願かなって迎えたのは、介助犬になる可能性のある子犬でした。“パピーホーム ボランティア”として約1年間、子犬を預かるのです」
加藤さん宅に最初にやってきたパピーは、のちに7歳でPR犬を引退して加藤さん宅に戻ってきたグッデイちゃんでした。
「ほんとうに、かわいい子でしたね。陽気で、猫や鳥などの動くものに興味津々だったのを思い出します。そんなグッデイのことを、娘も私もかわいがりすぎて、お別れの日は涙、涙、涙でした」
それから1年ほどして、新しいパピーが加藤さん宅へ。
「ヨーゼフの同胎犬のジョイです。ジョイは兄弟姉妹の中でもとても優秀で、介助犬になりました」
3頭目に預かったのは、黒ラブのイアンくん。
「イアンは協会の引っ越しにともなって預かることになった、4歳の成犬です。
半年ほど我が家で暮らしましたが、“お仕事大好き犬”でした。
小銭でも落とそうものなら、すかさず拾ってくれて。一度、床に落ちたハガキを取ろうとしていた時、足で引っ掻きすぎてハガキをボロボロにしてしまったことも。
何事も決してあきらめない、最高にいじらしい子でしたね」
そんなイアンくんとの別れのあと、加藤さんはショックが大きすぎて抜け殻のようになってしまったそうです。
介助犬の仕事を紹介するPR犬を受け入れ
イアンくんが加藤家から去って2日後にやってきたのが、現在の愛犬であるヨーゼフくんです。
「ヨーゼフは、イベントなどで介助犬の仕事を紹介するPR犬でした。我が家に2歳でやってきましたが、なかなかにやんちゃで半分パピーのような感じだったのを思い出します」
当時は専業主婦だった加藤さんは、1日2回、合計3~4時間の散歩にヨーゼフくんと出かけたと言います。
「“パピーホーム ボランティア”で預かった子犬たちとも、期間限定の1年間を満喫しようと、99%は犬のことで頭がいっぱいでした。残りの1%しか家庭のことを考えていなかったと言っても、過言ではありません。
ヨーゼフにはもちろん、預かってきた3頭のレトリーバーたちにも愛情をたっぷり注がずにはいられませんでした」
そんな加藤さんの生活に大きな変化をもたらしたのが、7歳でPR犬を引退して加藤家に戻ってきたグッデイちゃんでした。
レトリーバー多頭飼育は笑いの連続!
グッデイちゃんの登場で、最初に変化が現れたのはヨーゼフくんだったとか。
「『今まで家族みんなの愛情を独占してきたのにぃー!』と、急に仲間入りしたお姉ちゃん犬に対して、敵対心をむき出しにしていました。
ヨーゼフは、散歩で出会うほかのワンちゃんを撫でても焼きもちを焼かないのに、グッデイを撫でると不満そうな顔をして割り込んでくるんです。
それから、おもちゃはグッデイに譲りますが、ヨーゼフのそばにいるママ(私)は譲るもんかとばかりの態度を示していましたね。なので、『あのね、ヨーゼフ、男のジェラシーは見苦しいからやめて』と、ヨーゼフに毎日諭してもいました(笑)」
とはいえ、そこはもともと協調性の高いレトリーバー。加藤さんの諭しに加え、グッデイちゃんのおおらかな性格や何事も気にしないマイペースさも功を奏し、数ヵ月後には2頭は仲良くなっていたそうです。
多頭飼育でもっとも印象に残っているエピソードは、クレート脱出事件だと言います。
「布製のソフトクレートにグッデイを入れて留守番をさせていた日のこと。帰宅したら、なんとグッデイがしっぽを振って私たちのもとへやってきたんです。
『え!? どういうこと』と目線を移した先には、ボロボロに引き裂かれたソフトクレートが。おそらく、雷を怖がったグッデイが、布を引き裂いて脱出したのでしょう。
ところが、平然としているグッデイの横で、ヨーゼフは私に目を合わせようともしません。まるで自分が悪いことをしたかのよう。
『いや、ふたりの態度、逆でしょ!』と、つい突っ込んで家族みんなで大笑いしました」
犬に導かれて仕事をスタート
加藤さんは最初はグッデイちゃんと、その後しばらくしてからヨーゼフくんも一緒に、老人ホームなどの訪問活動(アニマル・アシステッド・アクティビティ)にも参加しました。
「グッデイは、自分を必要としている人をすぐに察知し、そばに行って寄り添う子でした。とても不思議なセラピー能力を持っていましたね」
やさしさあふれるグッデイちゃんでしたが、悪性腫瘍(がん)で旅立ちました。
「悲しくて苦しくて、毎日泣いていました。ペットロス状態にあった時、グッデイと一緒に活動していたボランティアのご縁で、仕事を始めるきっかけが舞い込んできたんです」
こうして、加藤さんは、日本に暮らす外国人のための日本語講師の勉強をスタートしました。
「辛さを忘れたくて、資格習得のための勉強に没頭しました。グッデイと訪問活動をしていなかったら、専業主婦だった私がこの歳で仕事を始めることはなかったでしょう。グッデイが導いてくれて、今があると実感しています」
加藤さんは現在、ヨーゼフくんを連れて事務所まで通う日々だとか。
「東南アジアから学びに来ている介護の技能実習生さんたちに、ヨーゼフは大人気です。
故郷から離れて暮らす人たちの心を癒すのに、一役買ってくれているのではないでしょうか?」
それぞれに個性的な4頭のレトリーバーは、加藤さん家族だけでなく、多くの人の心に心温まる思い出を残してくれているに違いありません。
執筆者:臼井京音
ドッグライター・写真家として約20年間、世界の犬事情を取材。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、家庭犬のしつけインストラクターや犬の幼稚園UrbanPaws(2017年閉園)の園長としても活動。犬専門誌をはじめ新聞連載や週刊誌などでの執筆多数。
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