【取材】司法の場で子どもを支える“付添犬”の大きな力と誕生秘話とは?「ゴルの魅力VSラブの引力」
2020年に日本で第一号が誕生した“付添犬”。今回は、2014年から医師や弁護士など多種の専門職と付添犬の実現に向けて活動を始めた吉田尚子獣医師に、司法の場で子どもを支える付添犬について詳しく聞きました。付添犬のことを知れば、犬の力のすばらしさにあらためて気づかされるに違いありません。
目次
子どもたちを暗闇から救い出すといっても過言ではない“付添犬”
獣医師として日本の“付添犬”の実現に力を尽くしてきた吉田尚子さんは、
「子どもたちのその後の人生をも左右する大事な場面で力になれる点で、付添犬は特別な存在だと感じています」と、語ります。
付添犬とは、虐待などの被害を受けた子どもが、自分の受けた出来事について司法関係者や医療従事者といった他者に、安心して伝えられるよう手助けをする犬のこと。
事情聴取などの場で子どもがさらなるトラウマを受けないよう、付添犬は子どもを精神的にサポートします。
2020年に初めての付添犬として活躍したフランとハッシュの後を継ぎ、2022年8月現在、ゴールデン・レトリーバー5頭、ラブラドール・レトリーバー2頭、ゴールデン・レトリーバーMIX1頭、スタンダード・プードル1頭、ボロニーズ1頭、ビション・フリーゼ1頭、チワワ1頭が“付添犬認証委員会(前コートハウスドッグ準備委員会)”から認証を受けて付添犬として活動しています。
さまざまな職業の人の想いから、日本で付添犬が誕生!
吉田獣医師が付添犬に携わるきっかけは、小児科病棟で“アニマル・アシステッド・セラピー(AAT)”活動を行っていたことでした。
「20年近く前、AAT活動で訪問していた病院の児童精神科病棟(レイル)には虐待を受けた子どもが多かったのですが、犬がその場にいると診察中に子どもが普段話せないことを話す様子が見られると、児童精神科医の新井康祥先生が気づいてくださって。
人ではなく、犬の存在が子どもの心の壁を下げるようだと。
犬の力を借りればもっと子どもを助けられる! と、ステップバイステップで、新井先生をはじめ大学の先生、保育士さん、弁護士さん、施設や司法の関係者たちが力を出し合いながら付添犬を日本に誕生させる動きにつながっていきました」(吉田獣医師)。
小児科病棟を訪れるセラピー犬の犬種は多彩ですが、吉田獣医師はレトリーバー種には独特の雰囲気があると語ります。
「レトリーバーは、存在感と包容力があると思います。
無口になりがちな思春期の子が、言葉も発せずレトリーバーの大きな背中を撫で続けたり、一緒に横たわったりしている光景もよく目にします。
施設を退出するときに『まだ帰りたくないです』というしぐさをレトリーバーにされると、みんなメロメロになりますよね(笑)。
また、その場ですやすや眠ったり、子どもの膝の上で寝息を立てたり……。
こうしたフレンドリーでおおらかなレトリーバーのなかでも、特に落ち着いてどこでもゆったりとした空気感をかもし出す貴重な資質を持っている場合は、それを活かせるトレーニングによって、きっとすばらしいセラピードッグになるでしょう」
なぜ、付添犬が必要なのか
付添犬の実働開始までや活躍のストーリーは、2022年7月に出版された『いっしょにいるよ 子どもと裁判に出た犬 フランとハッシュの物語』(涌井学著/小学館)に詳しく紹介されています。
2021年に[ゴルの魅力VSラブの引力]特集にも登場した付添犬フランも登場する同著を読むと、まさに「犬が人の心を救う」活動をしていることが手に取るようにわかります。
なぜ、犬でなければならないのか。
この問いを、付添犬の実現に向けての活動中、そして活動の場を増やしたいと願って働きかけている現在、吉田獣医師も理事を務める“NPO法人 子ども支援センターつなっぐ”のメンバーは何度も投げかけられるそうです。
「何も言わず何もしないで、しっぽを振りながら見守ってくれるようなところが、犬にしかない良さだと思います。
それとは逆に、助けてあげたい一心ではありますが、大人は子どもたちに手をかけたり声をかけたりしがち。
犬のようなノンバーバルなあたたかい空気感を、人はなかなか出せません」
吉田獣医師は、そう語ります。
書籍にも複数のエピソードが登場しますが、吉田獣医師が犬の力を心の底から実感したできごとがありました。
「以前、『今日は一切話せず、犬に会うことも叶わないと思います』と言われていたお子さんがやってきました。
『ワンちゃんにだけ会って行く?』と先生に促されて犬と触れ合ったら、お子さんの表情が一気にやわらぎ、硬く閉ざしていた口を開き、なんと1時間も自分に起きたことを話せたんですよ。
児童精神科医などの専門家ですら想像ができないくらい、いい意味で犬に裏切られ続けています」
犬は、今この時を懸命に生きるから
吉田獣医師自身は、家族として保護犬を迎えてきました。
「数ヵ月前に旅立った愛犬は、保護される日までよく生きていたなと思えるほど過酷な環境に置かれていました。
『生きていてくれて、ありがとう』と抱きしめた愛犬との生活で、実感したことがあります。
それは、犬は与えられた命をどんなにつらくてもまっとうするということ。
犬は自殺などしません。どんな状況でも生き抜こうとします。
付添犬と触れ合う子どもたちは、犬が命に真摯であるのを、感じるんだと思うのです。
犬のやさしさや温かさと一緒に、生命力が伝わり、子どもの生きる力になるのではないでしょうか。
命の危険を感じるくらいの虐待やいじめを経験した子どもたちは、命の尊さを、人から聞くのではなく、犬から感じ取る部分が大きいように見えます」
子どもに付き添う犬を、増やすために
2020年現在、アメリカには付添犬と同じ活動をする犬が、約240頭います。
コロナ禍の影響はあったものの、12頭いる日本の付添犬の活躍件数は増えています。
「これまでの活動をつうじて実感しましたが、犬がいないと大切な場面で話せない子どもも少なくありません。
子どもの将来がかかわる大切な場面で、もっと犬が付き添えるようにしていきたいと願っています。
そのために重要なのは、付添犬の育成ですね」(吉田獣医師)
当然のことながら、性格が穏やかでフレンドリーなレトリーバーであれば、すべて付添犬になれるわけではありません。
刺激に対して吠えたり興奮したりせず落ち着いていられるといったマナーを身に着ける必要があります。
「犬の適性をしっかりと見極めつつ、その良さを引き出すのはあくまでも人ですから。
かかわる人が、犬たちのために上手に風呂敷を整えてあげるのが大切なんですよ。タイミングも重要です。
そして、犬に助けてもらっている私たちは、犬にストレスがかからない活動をしているかも気を付けなければなりません。
犬たちの状態の確認やサポートも、獣医師やハンドラーなどが連携してていねいに行う必要があります」(吉田獣医師)
付添犬の活動を応援したいという人から子ども支援センターつなっぐへの寄付も、増えているそうです。
それはきっと、犬が持つ特別な能力のすばらしさが、多くの人に伝わっているから。
特殊な環境で助けを必要としている子どもたちにとって、付添犬がとても大きな力になっていることは間違いありません。
そしてこれから、もっと多くの子どもたちの力になれる付添犬とその活動の場が広がっていくことを願ってやみません。
寄付や付添犬の活動の最新情報については;
◆NPO法人 子ども支援センターつなっぐ
https://tsunagg.com/
執筆者:臼井京音
ドッグライター・写真家として約20年間、世界の犬事情を取材。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、家庭犬のしつけインストラクターや犬の幼稚園UrbanPaws(2017年閉園)の園長としても活動。犬専門誌をはじめ新聞連載や週刊誌などでの執筆多数。
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