2019年6月5日2,801 ビュー View

【別れと向きあう】大切なものを失ったとき、失いそうなときに生じる心の変化〜グリーフケアを学ぶ〜

みなさんは「グリーフケア」という言葉を知っていますか? グリーフとは、直訳をすれば悲嘆という意味ですが、獣医師で動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生によると、グリーフは「身近に存在する喪失体験による心情」だそうです。 今回は、阿部先生による“グリーフケアセミナー”( 2019年2月24日、東京都アニコムホールディングスで開催)のレポートを紹介します。 飼い主さん自身のため、愛レトのため、そしてまわりの人たちのためにグリーフケアを知っておけば必ず役に立つことでしょう。

 グリーフは自然な反応

自分にとって大切なものを失ったとき、あるいは失うかもしれないと想像したときに現れるごく自然な心と身体の反応が、グリーフだと阿部先生は述べます。

 

大切なものには、もちろん家族とペットのほか、慣れ親しんだ場所や状況や生活、役割、健康なども含まれます。

 

対象が大切であればあるほどグリーフが強く発生するのは、当然と言えます。

 

ご自身も愛犬や愛猫と暮らしてきた阿部先生によると、

 

「ペットの前では自然体でいられます。いつでもどんな状態でも自分を愛してくれて、言葉ではなく充足感を与えてくれる存在。ずっと自立しない子供のような存在で、ときには話し相手になってくれる親友のようなフレキシブルな存在とも言えます。ペットは私たちに生きる力を与えてくれて、ともに依存しあう対象でもあるのです」とのこと。

 

ペットを失うと「ペットロス症候群」に陥るほど大きなグリーフが起こるのは、ペットが、私たちが生きる上で重要な存在であるからなのです。

 

 愛レトにもグリーフはある

レトリーバー,別れ

carlos castilla/shutterstock

実は目の前の愛レトも、大きなグリーフを通り抜けています。

 

それは、母犬や兄弟姉妹犬との別れ。

 

そばにいれば安心で安全だった母犬のもとを離れ、私たちのところへ来てくれた愛レトには、まず最初にステキな名前をつけて、やさしい声で名前を呼び、あたたかい手で包んであげたいものです。

 

「そうすれば次第に飼い主のしあわせな気持ちが伝わって、愛レトも新しい家族に安心感を感じて親しんでいってくれることでしょう。

 

そして飼い主さんも愛レトも、当たり前の日常そのものが宝物になっていくのです」と、阿部先生は言います。

 

 愛レトの異変がグリーフに

愛レトとのしあわせいっぱいな日常生活に危機感が生まれると、飼い主さんにグリーフが発生します。

 

たとえば、「愛レトが重い病気にかかってしまったかもしれない……」、「今までのような平和な生活が壊れるかもしれない……」、「この子を失うかもしれない……」、「前の子のときのような苦しみがくるかもしれない……」といった「予期する喪失」であると、阿部先生。

 

これが生前のグリーフだそうで、実際に愛レトの喪失により、ペットロスと呼ばれるような死後のグリーフが発生すると言います。

 

「生前のグリーフと死後のグリーフは、実は非常によく似た心理過程が現れます。愛する対象を失うかもしれないと予期したり、あるいは失ったことによる悲しみ、絶望、後悔、自責などです。大切なことは、グリーフがペットの生前から発生するのを私たちが知っておくことだと思います」と、阿部先生は語ります。

 

 グリーフには基本のパターンがある

グリーフには、基本のパターンが存在します。

 

1.衝撃期: ショック、無感覚(頭が真っ白になる)、思考困難、否認、緊張、不眠など

2.悲痛期: 悲しみ、嘆き、後悔、自責、怒り、罪悪感、孤独感、再会への望みなど

3.回復期: 現実受容、断念、立ち直り、肯定的思想など

4.再生期: 希望、再出発、自立、新たな出会いなど

 

阿部先生によると、最初に訪れる衝撃期は、現実に向き合う必要はなく現実から逃避して身を守る時期で、次に訪れる悲痛期は、真の心の痛みを感じる時期だと言います。

 

愛レトの生前であっても死後であっても、この4過程のどこかに現在いることを自分自身が自覚し、決して自分を否定することなくありのままの状態を受け入れるだけでも、グリーフケアにつながるのでしょう。

 

阿部先生は、スキューバダイビングをして大自然にひとり身を置くことがグリーフケアにつながった経験があるそうです。

 

また、最近では阿部先生のアドバイスなどによって、ペットの生前から飼い主さんへのグリーフケアを行う動物病院も増えているようです。

 

 カルテには愛レトの日常の呼び名を記載してもらおう

動物病院で愛レトの日常的な呼び名で呼んでもらうことも、愛レトや飼い主さんのグリーフケアのひとつだと阿部先生は言います。

 

「問診表やカルテに、自宅の呼び名を記載しておくのもよいでしょう。

 

治療中や入院のときなど、いつもの呼び方で呼んでもらうと、愛レトも違和感を感じにくく安心するはずです」とのこと。

 

かかりつけの動物病院や、紹介されて訪れる2次診療病院などの看護師さんや獣医さんに、呼んでもらいたい愛レトの名前を伝えるようにしたいものです。

 

 愛レトへのグリーフケアも大切 

日常生活における異変を感じた愛レトにも、グリーフは発生しています。

 

動く、食べる、寝る、トイレをする、遊ぶ、散歩する、心地よい声を聞く、飼い主さんの笑顔を眺める、リラックスするといった日常の生活が当たり前のように行えなくなったとしたら、愛レトも不安感や緊張感を抱いてしまうかもしれません。

 

そんな愛レトの目の前で、飼い主さんが悲しそうな表情を浮かべていたり、「もっと早くに病院に連れて行ってたら……」などと後悔や自責の念にかられてため息をついていたとしたら、愛レトはどうでしょうか。

 

「愛犬は、そのような飼い主さんの姿を見ることは望んでいないでしょうね。

 

そばにいる飼い主さんを見て、緊張や不安が増すとも考えられます」と、阿部先生は述べます。

 

もし飼い主さんが愛レトのターミナル期(治る見込みのない病気の療養中)などに、グリーフに陥ってしまっていると自分自身で気づいたら、カウンセラーやグリーフケアを行ってもらえる動物病院のスタッフの力を借りたり、自分自身で、グリーフケアを行ってみましょう。

 

愛レトとの思い出をつづるブログを執筆したり、SNSに投稿したり、写真を撮影したり、アルバムをまとめたりするのもひとつの方法です。

 

「そうすれば、『そうだ! この子と出会えたのは奇跡のようにすばらしいこと。悲しみがあっても良い時間に感謝しよう。目の前にいるこの子のためにできることはなんだろう?』と、勇気が生まれてくるはずです」と、阿部先生は言います。

 

「目の前の愛犬にできる生前のグリーフケアは、愛犬が病気に苦しんでいたとしても、病気を主役にするのではなく、〇〇ちゃんを主役にして〇〇ちゃん目線で考えること。飼い主さんは愛犬のQOL(生活の質)を保てるように、愛犬にとっての安全基地を守るように心がけてくださいね」とも、阿部先生は言います。

 

グリーフの存在を知り、生前から愛レトにグリーフケアを行うことが、飼い主さん自身へのグリーフケアにもつながるのだと、考えさせられたセミナーでした。

 

 

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