2019年5月3日4,647 ビュー View

【人のてんかん発作を予知】介助犬レトリーバーの話〜書籍『働く犬たち』より〜

ゴールデンレトリーバーのウィリーは、てんかんの発作を予知して、発作が起きた際の対応をする、アメリカで有名な犬でした。今回は、『働く犬たち』(M・ウェイズボード/K・カチャノフ著、佐倉八重訳、2003年、中央公論新社)より、ウイリーのストーリーを紹介します。レトリーバーのすばらしさを、あらためて実感できるに違いありません。

たぐいまれなる才能の持ち主、ウィリー

ゴールデンのウィリーは、生後8週齢頃からアメリカのミシガン州ウェイランドにある北米最大の介助犬訓練学校PAWSで基礎訓練を受けました。

 

ここでは盲導犬をはじめ、聴導犬、介助犬、救助犬、そして発作対応犬のトレーニングを行っています。

 

トレーニングを受ければ、どんな犬でも仕事を持てるわけではなく、発作対応犬として働けるのはごくわずかだとか。

 

辛抱強さや知性や穏やかな気質を備えていて、発作対応犬としての資質を備えた犬かどうかをテストすると、2パーセントほどしか合格しないそうです。

 

ウィリーはPAWSで、てんかんを持つ人が発作を起こす前に察知し、危険な場所から移動させること、さらには発作で身動きが取れなくなっている間に安全を守ることを学びました。

 

ウィリーは、外部の助けを呼ぶための緊急連絡装置を使うことや、ブザー音に反応して主人に薬の時間を知らせることもできます。

 

実はPAWSでトレーニングを受けた発作対応犬のうち、2003年の書籍発行までの間に、発作が迫っていることをてんかん患者に警告できる犬はウィリーを含めて5頭に過ぎなかったとか。

 

それだけ非凡な能力を備えたウィリーは、ミシガン獣医学協会から“年間最優秀セラピー・コンパニオン・ドッグ”として認定されています。

 

飼い主にとっては「救世主」

レトリーバー,てんかん

Jitlada Panwiset/shutterstock

ウィリーの飼い主のジョアン・ウィーバーさんは、ウィリーのことを「救世主」であると述べています。

 

それだけ、ウィリーはジョアンさんにとってはなくてはならない存在。

 

てんかん発作の恐怖を抱えて外出をしていたジョアンさんは、過去に発作で失神している間に強盗にあったことがあると言います。

 

ウィリーと暮らし始めてからは、自宅でも外出先でも、危険に遭遇することはありません。

 

発作を起こしたジョアンさんの意識がすぐに戻らなければ、犬の足で操作可能な電話を使ってウィリーが助けを呼ぶこともできます。

 

ジョアンさんは言います。「ウィリーが私の人生を取り戻してくれた」と。

 

働く犬のストレス発散のための“ドッグ・スカウト”

グラフィック・デザインや美術関係の仕事をしているジョアンさんは、ウィリーと一緒に参加する“ドッグ・スカウト・キャンプ”を楽しみにしていると言います。

 

これは、ワーキング・ドッグとその家族が集まるキャンプで、ハイキング、ボール遊び、捜索、水難救助、追跡といった技術訓練に犬たちが参加するほか、家族は犬のマッサージや体調管理法、応急手当などについても学ぶもの。

 

ハイキングは、外出時にジョアンさんの薬や貴重品を背負っているウィリーの体づくりや体力維持に欠かせません。

 

盛りだくさんの内容ですが、犬たちが互いに遊んで大いにストレス発散ができるのも、ジョアンさんの参加理由だそうです。

 

キャンプのモットーは、「人間よりはるかに寿命の短い犬たちが、人間との暮らしを楽しむ助けになること」。

 

働く犬の生活の質が高められ、家族間の交流も深められるキャンプは、すばらしい取り組みだと言えます。

 

ジョアンさんが参加するキャンプでは、絵の具を使って犬たちがペインティングをするプログラムもあります。

 

そこでウィリーが描いた絵は、寄付金集めのためのオークションにかけられているとも。

 

ウィリーはジョアンさん同様、描くことが大好きなようです。

 

そのキャンプ中に、ジョアンさんは湖畔で発作を起こしそうになったことがあったとか。

 

遊びに興じていたウィリーでしたが、弾丸のような勢いでジョアンさんに駆け寄り、「水に落ちないように、早く桟橋から離れて」と、ジョアンさんに向かって激しく吠えたと言います。

 

危険を回避できて、ジョアンさんの意識が戻り目を開けると、いつものようにウィリーが心配そうな表情で「大丈夫、ウィリー、もう大丈夫」と安心できる声をかけてくれるのを待っていたそうです。

 

2019年に明らかになった発作予知犬の能力

2019年3月28日付けの学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』に、筆頭著者のアメリ・カタラ氏(仏レンヌ大学の博士課程在籍)などが発表した研究結果によると、てんかん発作の最中には人から特有のにおいが発せられていて、犬はそのにおいを認識できるとのこと。

 

これまでも、てんかん発作に伴う脳内の化学変化を、犬たちはにおいでとらえられるのではないかと推測する研究者は少なくありませんでした。

 

けれども、論文でそのような事実が証明されたのは初めてです。

 

ウィリーのようにてんかん発作から人を救う犬が、もしかすると今後はこの研究結果などをもとに増え、日本でも発作予知犬や発作対応犬が一般的に活躍する日が、近い将来訪れるかもしれません。

 

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