【エッセイ】別れの日から10年。今の気持ちとこれまでの想い[Roco]
ゴールデンレトリーバーのRubyが旅立ったのは2009年の春でした。満開の桜と共に見送ったので、春になり桜の季節になると私はどうしても気持ちがざわつき胸が苦しくなることが多くなってしまいます。フラッシュバックとでも言うのでしょうか、自分では制御できない不安感に襲われ冷静でいることが出来ないような状態も経験しています。けれど「時は最良の薬」。時間の経過と共に日々の生活も、桜を見る時の気持ちも変化しています。大切なものを失った悲しみはなくなることはありませんが、10年という歳月が流れた今、時が解決してくれることがたくさんあるということを実感しています。そのような経験を一つの例として知っていただきたいと思い、Rubyを見送った後私の心に起きたことや心境の変化などを見つめ直し、ここに記すことにしました。
目次
2009年4月6日、あの日から10年
「桜の季節がやってきた!」
春になると日本中この話題で持ち切りになり、開花宣言や満開予想で皆がそわそわ。
けれど私にとっては自分の気持ちと戦う季節の始まりです。
Rubyが旅立った時はちょうど桜が満開で、2日後の葬儀に向かう車中私は舞い散る桜吹雪をずっと眺めていました。
その時のことを思い出そうとすると、Roccaを膝に抱き家族で黙って外を見ていた映像がスローモーションのように、そしてまるで他人事のように流れるだけです。
このような私ですが、10年前と今と全く同じ状態にあるわけではありません。
胸が痛むことはあってもその回数は格段に減りました。同様に涙することも後悔で自分を責めることも減っています。
それは「美しい思い出と共に生きる」「悲しみと共に生きる」、この一見相反する2つのことを決めたからかもしれません。
そしてそのように思えるようになったのはやはり「時間」という魔法の薬のおかげだと思います。
苦しくて悲しくて、世界は一瞬で色を無くした
15歳と2ヵ月、その生涯は犬としては決して短いものではなく、それだけの時間一緒に過ごせたことには感謝しかありません。
余命宣告も受けていましたから私なりに「覚悟」はしていたつもりでした。
けれどやはりそんな覚悟は何の役にも立たず、あの日から私の世界は一変したのです。
当時のことは記憶が曖昧なのですが、とにかく「しっかりしなくては」という気持ちで色々な手配をしたことは覚えています。
その時のことを家族に聞いてみるとやはり冷静に対処していたという答えが返ってくるので、たぶんそうだったのでしょう。
私はRubyのことは華やかに賑やかに送ってあげたいと思っていました。
たくさんのお友達に来ていただいて褒めていただいたらきっと彼女は満足するだろうなと思っていたので、そのために生前から犬のお通夜が出来るところを探していました。
ですがそのような場所を見つけることが出来なかったため、結果的には自分のアトリエ(Rubyはそこで亡くなりました)にお友達に来ていただくことになったのですが、夜中まで泣いたり笑ったりしながらRubyのことを話せたのはとても幸せな時間となり、良い思い出になりました。
その頃私は仕事がとても忙しく、数日後には自分が主催するイベントも控えていました。
連日の打ち合わせと準備でへとへとになり、仕事をしている昼間はあまり泣けなかったような気がします。
でもそれも覚えていないのです。
覚えているのはちょっと外に出た時に感じた「Rubyがいないのに世の中は動いている」という絶望にも似た気持ちだけです。
色を失った世界に立ちすくむ、そんな私をまたどこかで私が見ているような不思議な状態でした。
Rubyがいない生活が始まった
Rubyがいないという事実を頭で理解しても心が付いていかないという日々。
それはRubyを心から慕っていたトイプードのRoccaも同じでした。
むしろ理屈で考えることが出来ないRoccaの方がつらかったのかもしれません。
それまでRubyの看病などに必死だった私でしたが、今度はごはんを食べなくなり笑顔が消えたRoccaのサポートに必死になります。
けれどRoccaがいなかったら私は生きる意味さえ分からなくなっていたかも知れず、Roccaの存在は私の希望でした。
それでも悲しみと苦しみはなくなるものではなく、慟哭とはこういうことかと思い知るほど急激な感情の波に翻弄される日々が始まり、更に「あの時こうしていたら」「こうしていれば」という「たら・れば」が繰り返し浮かんできて、後悔にさいなまれることも日常となっていました。
考えても仕方ないとわかっていてもその思いを消すことが出来ないのです。それはとてもつらいことでした。
桜の季節に限らず、感情を揺さぶるきっかけになるものはそこかしこにありました。
私の場合はお散歩のルートを歩くことは出来ましたし、ゴールデンに出会っても悲しい気持ちになることはありませんでした。
けれど車の運転は1年間することが出来ませんでした。狭い車内で「いない」ことを感じながら走ることは苦痛すぎる上に突然涙が出てくるので危険だったのです。
1年が経ち2年が経ち、毎日泣いていたのが数日おきになりました。
悲しみと苦しみの波は感覚を広げ少しずつ穏やかになり、涙は冷たいものからあたたかいものに変化してゆきました。
「ありがとう」の気持ちと「自分を許す」気持ちが悲しみの中から生まれてきたからだと思います。
まだ出来ないことがあってもそんな自分を許してあげる
10年以上続けていたブログも自分の心と向き合うことへの助けになっていました。
Rubyのことを知っていてくれている人との交流、Rubyとの思い出を書き続けること、写真を探すこと。
このようなことは人によってはつらい作業かもしれませんが、私の場合はRubyのことを語り続けることが自分の癒しになっています。
ただ、今もRubyが亡くなったその時にいただいたたくさんのコメントへのお返事は書けないままです。
何度もトライしましたが、どうお答えしようか考え始めると冷静ではいられなくなり苦しくなってしまうのです。
このことは私の中で未解決の部分ですが、そんな自分を許すことにしています。
10年経ったのにまだ?なんてことを考える必要はないのです。
そして感情のままに泣いて、叫びたければ叫んで、そして自分を責めるならそうすれば良いと私は思っています。
感情をしまい込んだり捻じ曲げたりすると歪みが生まれてしまうからです。
身体の無理は少し休めば回復するかもしれませんが、心の無理はそうはいきません。
周囲の理解ある人との交流もとても大切なことでした。
それはさまよっている魂を現実に引き戻してくれる時間だったからです。
ただ話を聞いて一緒に泣いてくれた友人やネット上の人たち、私をそっと見守ってくれていた家族にとても感謝しています。
そして一緒に悲しみと戦ったRoccaと、新しい幸せを運んでくれたRoccaの新しい相棒Repetto。
Rubyと共に彼女たちの笑顔は何にも変えられない宝物です。
こうして私の世界に色が戻ってきました。
悲しみと共に生きるということは幸せの証でもある
「Rubyは私のすべてでした」。
そう言ってしまえるほど私はRubyを愛し、誇りに思い、共に生きていました。
ですがRubyを失った今も私はここにいてRoccaやRepettoと幸せに暮らしています。
大切なものを失った悲しみは決してなくなることはありません。
ゼロになることはあり得ないと思っています。
ですが私は「この悲しみを抱えたまま生きて行こう」と決めたのです。
それはいつのことだったか忘れてしまいましたが、苦しみながらも見つけた答えでした。
Rubyを失った悲しみが消えないことは不幸なことではなく、それだけ愛し愛され幸せな時間を過ごすことが出来たということに他なりません。
たくさんの幸せな時間、たくさんの想い出、共に生きることが出来た喜び、出会えた奇跡。
そんなことを想うとこの悲しみは幸せの証なのだと思わずにいられません。
あの日から10年。
Rubyとの日々は今も私の中で輝き続けています。
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