【レポート】 「その薬はなんのため?」獣医療からみる中医学(東洋医学)のすばらしさ。
愛犬にはいつまでも健康で長生きして欲しいものです。私もそんな飼い主のひとりです。犬の平均寿命は確かに延びましたが、寿命だけではなく「健康寿命」を延ばしてあげたいと思っています。ではそのためにどんなことをしたらいいのでしょう?どんな選択肢があるのでしょう?今回は東洋医学とはどういうものなのかを知るために『愛犬と20年いっしょに暮らせる本』(さくら舎)の著者の星野浩子獣医師のセミナー、「動物にとっての幸せの選択~獣医療からみる中医学~」にお邪魔してきました。
※中医学とは中国の伝統医学です。それに対し東洋医学は日本流の考えが入っており中医学とイコールではありませんが、今回は東洋医学の考えも入っているため以後「東洋医学」という言葉で統一しています。
西洋医学と東洋医学について知るということ
日常会話の中で「西洋医学の進歩ってすごいよね」とか「最近東洋医学に興味があって」などという言葉を耳にすることはありませんか?
また「西洋医学より東洋医学の方が身体に優しい気がする」「早く直すなら西洋医学でしょ」なんて言葉も聞いたことがあると思います。
人間の世界のみならず動物の世界でもこの「西洋医学と東洋医学」というのは常に引き合いに出され、注目を集めるワードです。
でも実際のところその違いに関しては曖昧な方が多いのではないでしょうか。
もちろん曖昧でも患者側として困るようなことは起きないかもしれません。
ですが、現代は愛犬の医療において選択肢が増えたありがたい時代である反面、そのことが私たちを悩ます場合があると私は感じています。
基礎知識を持つことは自分の選択に自信が持てるようになるということ。
西洋医学と東洋医学、どちらが良いということではありません。
何となく「西洋対東洋」という図式で考えてしまいがちですが、そうではなくその都度自分たちに合った医療を選択していくことが出来るのがベストだと思います。
西洋医学と東洋医学の違いとは
「最初はあまりの違いに戸惑いました」(星野先生)
西洋医学と東洋医学はそれほど考え方が異なるものなのです。
西洋医学 :病気になってからその症状を止めるための治療をする
東洋医学 :病気にならないような身体作りをするための予防をする
西洋医学は病気になってからがスタートです。
そのため何の病気かを知るために血液検査やエックス線検査、エコー検査などの検査を行い、その検査結果から疾患部位を特定し病名をつけることが必要になります。
そして病気が特定されたら投薬治療、外科治療、理学療法などに進んでいくことになります。
例えば愛犬が激しい下痢をして「細菌性腸炎」と診断され抗生剤が出される、というのは西洋医学的な治療です。
薬で症状を緩和するので効き目は早いことが多いのですが、病名がつかないものの治療は苦手です。
それに対し東洋医学ではまず「病気にならないようにする」という予防の観点からスタートするので病気である必要はありません。
また、症状が出ている場合にはその場所だけにフォーカスするのではなく、「なぜそういう症状が出ているのか」という原因を探っていきます。
そして検査結果によって病名を決定するのではなく体質や四診と言われる東洋医学における診断法を用い、身体全体を整えるという治療を行っていきます。
具体的には「鍼灸治療」「推拿(すいな)療法」「食養生」「漢方療法」が挙げられます。
推拿というのは聞きなれない言葉かと思いますが、中国の按摩(あんま)です。
このように西洋医学と東洋医学では病気に対する考え方も治療法も大きく異なるのです。
なぜ私たちは東洋医学に興味を持つのか
風邪を引いたら風邪薬、頭痛がしたら痛み止め、病気によっては外科手術。
このように私たちの生活には西洋医学による治療が浸透しています。
それは動物の世界でも同じで、動物病院と言えば一般的には西洋医学を用いての治療となります。
最近ではむやみに薬に頼るのは良くないという考え方が浸透してきていますが、自分の判断で動物病院から出された薬を飲ませないというのも勇気が必要ですよね。
自分の身体だったら何かあっても「自己責任」と諦められるかもしれませんが、薬を飲ませないで愛犬の体調が悪くなってしまったら…と考えるとそれはとても難しい判断です。
このように私たちは常に「愛犬にとってどういう医療がベストなのか」を考えています。
そしてそれは「愛犬に負担をかけない医療」ということです。
薬は症状を緩和してくれても、根本的な治療になっていないかもしれません。副作用が出るかもしれません。
また、西洋医学では痛みを伴う治療が必要になるかもしれません。
そのようなことを考えた時、愛犬にストレスを与えず身体全体を整え病気を防いでくれる「東洋医学」に目が向くのではないでしょうか。
「その薬は何のため? ということを考えることが必要です」。(星野先生)
薬が悪なのではなく、疑問を持つことが必要なのです。
東洋医学における「気」と健康長寿
愛犬には健康で長生きしてもらいたいもの。そこに関わってくるのが「気」です。
東洋医学ではこの「気」が健康長寿に大きく関わっています。
では「気」とは何でしょう?
この概念はなかなか難しいので、ここでは簡単に「体内エネルギー(生命力)のこと」と考えてください。
気には生まれ持った「先天の気」があり、それには強い・弱いがあるそうです。
残念ながら先天の気が弱いと生命力も低いということになります。
では先天の気が弱いと健康長寿は望めないのかというと、そんなことはありません。
「後天の気」というものがあり、それは食べ物などから作られていきます。
生まれ持ったものはどんどん減っていくのですが、食養生などで後天の気を補っていけば良いのです。
自然の中で過ごすというのも気を補うための良い方法です。
レトリーバーは自然の中が大好き!
どんどん連れて行って、愛犬だけでなく私たちの気の補充もしてしまいましょう。
西洋医学の獣医療に東洋医学を加えることで選択肢が増える
西洋医学と東洋医学、その長所と特徴を知ることは選択肢が増えることです。
「西洋医学のこれまでの獣医療に加え、東洋医学の考えに基づく治療を選択肢に加えることで格段に治療効果が上がり、動物の身体を整えることができます」。(星野先生)
東洋医学の考え方には核となるいくつかのものがありますが、その中に「整体観念」というものがあります。
これは「身体と心は関連している(ひとつである)」という東洋医学における生命のとらえかたです。
臓器もひとつひとつだけの働きではなく互いに影響し合っているので、どこかに手を加えると他に影響が出ることになります。
また、自然環境(外的要因)や精神的ストレス(内的要因)なども全てが関連し、動物の身体に影響を及ぼします。
このことは理屈ではなくすでに私たちが感覚でわかっていることではないでしょうか。
また、これは私の勝手な見解ですが、人間よりずっと純粋で自然に近い犬たちはもっと強くこの影響を受けているような気がします。
東洋医学は今も中国最古の医学書と言われる「黄帝内経(こうていだいけい)」に基づいており、不変的なものです。
しかし西洋医学は日々進歩し変化しています。
これは大きな特徴であり、病気によっては大きな希望となるでしょう。
西洋医学による最先端の医療によって病気を治す、東洋医学によって全体を整える、どう選択していくのか。
迷ったら自分と愛犬に合った方法をセミナーや本で勉強する、星野先生のような獣医中医師(東洋医学の専門知識と資格を持つ獣医師)さんに相談する、ぜひそのような方法を取って納得のいく医療を受けられるようになっていただきたいと思います。
<病院探しの参考になるサイト>
動物のための鍼灸漢方広場 一針多助
http://shinkyu-pet.com/index.html
獣医師・星野浩子先生 プロフィール
ほしのどうぶつクリニック 院長
日本獣医中医薬学院非常勤講師
(特級獣医中医師・獣医推拿整体師)
酪農学園大学を2002年に卒業後、札幌市立円山動物園非常勤職員として勤務。
その後東京にて小動物臨床に従事。
2012年より勤務医を続けながら日本獣医中医薬学院に入学し中医学の勉強を始める。
2016年東洋医学の治療を専門的に行う往診専門クリニックを開業。
2018年11月「愛犬と20年いっしょに暮らせる本」(さくら舎)を上梓
同年より日本獣医中医薬学院非常勤講師として一般の飼い主様向けの中医学セミナー講師も務める。
ほしのどうぶつクリニック
今回のセミナー主催
ぱれっと
執筆者:Roco
『ヒトとイヌ』を永遠のテーマにしているフォトグラファー&ライター。
撮影・執筆の他、写真のレッスンも行う。
フォトグラファーになるきっかけを作ってくれた英国ゴールデンのRubyは15歳2か月で虹の橋へ。 現在の愛犬はトイプードルとオーストラリアン・ラブラドゥードル。
子供の頃からの夢は「ドリトル先生になること」
Facebook:Roco ~LoveLetters~ 写真と言う名のラブレター
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