【取材】松本幸四郎・市川染五郎の新しい家族はラブラドール―特集「ゴルの魅力VSラブの引力」
2020年の春、歌舞伎俳優の十代目松本幸四郎さん・八代目市川染五郎さん家族のもとに、ラブラドールレトリーバーの子犬がやって来ました。コロナ禍がきっかけで犬を迎えることになったと語る、幸四郎さんの妻・藤間園子さんへの取材をもとに、今回は藤間家のレトリーバーライフを紹介します。
コロナ禍で、歌舞伎役者の夫がずっと自宅に
2020年の春、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、藤間園子さんの夫で歌舞伎俳優(屋号:高麗屋)の松本幸四郎さんは、舞台の仕事がすべて延期やキャンセルになってしまいました。
その予想もしなかった出来事がきっかけで、藤間家では、念願だった犬を迎える計画が一気に進展したと言います。
「主人も私も、幼少期から実家にはいつも犬がいたので大の犬好きで、いつかまた犬と暮らしたいとお互いに思っていたんです。
とはいえ、主人にはほとんど休みがない上、私も主人が出演している劇場まで毎日足を運んだり、息子と娘の育児にと忙しい日々を送ってきたため、時間的にも気持ち的にも愛犬を迎えるゆとりがありませんでした。
ところが、コロナ禍で、家族みんなが自宅に籠る日々が続き……」と、園子さんは桜のつぼみがほころび始めた今春を振り返ります。
市川染五郎さんや娘さんにとっては祖父である二代目松本白鸚さん宅で、シー・ズー犬と触れ合ってきた兄妹も、自分たちの犬と暮らすのを夢見てきたと言います。
そのため、家族だけで過ごす長い自粛期間中、自然と犬を探す方向に話が進んでいったそうです。
迎えるのなら、絶対にラブラドール!
どの犬種を迎えるか検討に入った際、染五郎さんと娘さんは、「おばあちゃんがプレゼントしてくれたぬいぐるみと同じ、ラブラドールレトリーバーがいい!」と口を揃えたとか。
「ぬいぐるみの名前は、義父と義母がかわいがっていたシー・ズーの末っ子の“ぼん”。そしてもう1頭は、“ぼん吉”です。子どもたちは、それはもう、幼い頃からぼんとぼん吉をまるで自分たちの愛犬のようにかわいがってきました」(園子さん)
幸四郎さんは小型犬としか暮らしたことがないので、ラブラドールレトリーバーと生活をするイメージが湧かなかったようです。
「なので、家族でラブラドールについてインターネットなどでたくさん調べました。また、知人から話を聞いたりもしました。そして、ともかく一度ラブラドールの子犬を見に行ってみようと、近くのペットショップまで家族で足を運んだのです」
「やんちゃですか?」と聞いた理由は……
ペットショップには、2月生まれの生後2ヵ月齢のラブのオスの子犬がいたそうです。
「かわいい!」、「本当にかわいい!」と夢中になる染五郎さんや娘さんを横目に、園子さんはショップのスタッフに次の質問を投げかけずにはいられませんでした。
「このコ、やんちゃですか?」と。
「実兄のところに、ゴールデンドゥードルがいるんです。そのコがとてもやんちゃ娘で……。
兄は今のコの前に、13歳で旅立ったラブラドールを飼っていたのですが、兄の犬たちを見る限りはレトリーバー系はけっこうパワフルでイタズラ好きというイメージなんですよね(笑)。
私はかつて、とても落ち着いた性格の柴犬と暮らしていました。だから、やんちゃなレトリーバーでもちゃんと扱えるかしら? と、確かめたかったのです」
不安な気持ちを抱える園子さんにスタッフは、「のんびりとマイペースな性格のコです」と答えを返したそうです。
それらをふまえた上で開催された家族会議を経て、結局、ペットショップで出会ったラブの子犬が藤間家にやって来ました。
染五郎さんが高麗屋にちなんだ名を付ける
桜も散り木々が新緑をまとい始めた春、家族の一員に加わったラブラドールは“ニッキーくん”と名付けられました。
「息子が名前を考えたんですよ。由来は、歌舞伎の演目である『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』に登場する悪役の仁木弾正(にっきだんじょう)から。
この役は高麗屋の当たり役なんです。息子は、自分の“家”にちなんだ名前を愛犬に授けたいと思ったようですね」と、園子さんは語ります。
ニッキーくんが来てから、コロナ禍で自宅で過ごすことが多かった藤間家の雰囲気はパッと明るくなったとか。
「お腹を出したままおもちゃをかじっていたり、ソファの陰に隠れながら家族をじーっと見つめていたりと、予想外のニッキーの行動にみんな大笑いです。
でも、笑ってばかりいられなくて、一度は息子が愛用しているイヤホンを誤飲してしまい……。慌てて動物病院に駆け込み、催吐剤を投与してもらいバラバラになったイヤホンを吐かせました。
誤飲で開腹手術をしたという友人の愛犬のエピソードなども聞いているので、ニッキーがそうならないように気をつけないといけませんね」(園子さん)
“犬の幼稚園”に行くのも大好き
コロナ禍が落ち着いて、幸四郎さんの舞台や、染五郎さんや娘さんの学校も再開された現在、ニッキーくんは週に1~2回“犬の幼稚園”にも通っているそうです。
「たくさん楽しい経験もさせてあげたいですし、家庭犬としてスマートなマナーも身に着けてもらいたいですからね。ニッキーは、ほかのワンちゃんと夢中になって遊んでいるようで、それを聞くとうれしく感じます」と、園子さんはニッキーくんを撫でながら微笑みます。
最近まで、ニッキーくんは階段が苦手だったそうですが、“犬の幼稚園”のドッグトレーナーのサポートもありようやく階段の昇降もできるようになったとか。
「ニッキーの少しとぼけたところが、かわいいですね。息子のイヤホンまで食べちゃうし、家具をかじるなど破壊屋で豪快な性格かと思いきや、先日はむいて小さく刻んだ梨をあげたら、においを嗅いだあと『お母さん、これ何? 食べても大丈夫?』というような表情で警戒しているんです(笑)」
これから、ニッキーくんはどんな新たな一面を見せてくれるかも楽しみです。
「せっかく運動能力の高いレトリーバー犬種を迎えたのですから、いつかドッグランで、投げたフリスビーを華麗にキャッチして持って来てもらいたいですね。
息子は、自分の部屋でニッキーと寝るのが夢みたいです。成犬になるまでは、リビングのハウスで寝かせる予定ですので。
自室で過ごすことの多い息子よりも、リビングにいる時間が長い娘は、ニッキーとよく並んでソファに座っています。
ニッキーは、本当に愛らしい。そばにいてくれるだけで癒されます」
そう語る園子さんの足元で、ニッキーくんは遊び疲れてスヤスヤと眠ってしまいました。
藤間家のレトリーバーライフはまだスタートしたばかり。
ニッキーくんの成長ぶりや、今後どのようにニッキーくんの生活が彩られていくのか、これからも目が離せません。
※藤間園子さんのインスタグラムでも『#ニッキーの日記』が紹介されています。
執筆者:臼井京音
ドッグライター・写真家として約20年間、世界の犬事情を取材。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の問題行動カウンセリングを学んだのち、家庭犬のしつけインストラクターや犬の幼稚園UrbanPaws(2017年閉園)の園長としても活動。犬専門誌をはじめ新聞連載や週刊誌などでの執筆多数。
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