【取材】レトリーバーと暮らす前に。プレオーナーセミナーは幸せへの近道です
フェアトレーニングをコンセプトに掲げているD.I.N.G.O.(Dog Instructors Network Of Great Opportunity)代表の新居和弥(あらいかずや)さん。新居さんは様々なトレーニングシステムを開発し、インストラクターの養成やオーナー向けのセミナーを行っています。その中にはプレオーナーセミナーという犬と暮らし始める前に受けるセミナーも存在します。先に知っておくことで避けられる問題はたくさんあること、確かな情報を得ることの大切さをお話ししていただきました。
目次
D.I.N.G.O.のプレオーナーセミナーとは
プレオーナーセミナーとは犬を迎え入れよう、犬と暮らそう、と思った時に「絶対知っておきたいあれこれ」を教えてもらうためのクラス。
新居さんは車に例えてこう話してくれました。
「車は教習所に行ってから乗るのに、犬を飼う前にはどうして何も勉強しないのかが不思議でした。車をいきなり運転したらぶつかってボコボコになって修理も大変ですよね。結果的に遠回り。犬を迎えることも最初はわからないことだらけなのだからいきなりというのは危険だし遠回りです」。(新居さん)
セミナーでは犬と暮らし初めて起こり得る良い話と悪い話を全部して、その場合はこう対処する、ということを話しているのだそう。
本やネット上で得られる知識もあるけれど、だからこそ信じてはいけないこともあるということも知っておくべきということも伝えています。
「トイレのこと一つとっても本通りにはいかないだろうし、甘噛みで悩むかもしれない。でもそれは一時的なことなので対処方法を教えます。封印せずにコントロールするという考え方です。食糞のことなども知っていれば驚かないで済みますよね」。(新居さん)
また、引っ張りや吠えなど起こりがちな問題だけでなくワクチン・狂犬病の注射、こういう場合はすぐ獣医さんへ、こういう場合は様子見で大丈夫、といった獣医学的な話も含まれているそうです。
まさに至れり尽くせり!
「実は悩みの種類ってそれほどたくさんないのです。最初に伝えておけば冷静に対処できる。でもそれが起きてから悩むと泥沼に入っていることが多いので時間がかかるしストレスもかかってしまう。吐くことは人間より多いとか、くしゃみをしていたら風邪だと思うかもしれないけれど、それは違うとか。人間と置き換えて判断しないように、というようなことも話しています」。(新居さん)
教えるのはD.I.N.G.O.のインストラクターで、2日間×2時間というスケジュールが基本。
でも一律である必要もないと考えているため、人によっては早く進んでもいいし、オーバーしても構わないとのこと。
「早く卒業することが目的ではなく、理解することが大切なのです。また、個別対応が必要な場合は別途時間を設けることもできます。例えばレトリーバーの特徴についてもっと理解したい、という場合はその点に特化して個別にレクチャーします」。(新居さん)
レトリーバーに限らず自分にはどんな犬が向いているのか、どんな点に注意してステキなパートナーを見つければよいのかなど、プロと一緒に考えられるのはとても心強いことですよね。
初めて犬を迎えようと思った時に湧き出た疑問が始まりだった
新居さんの現在のパートナー犬はサモエドのルフト君ですが、最初のパートナーも同じくサモエドのノイ君でした。
ノイ君を迎える前に感じた疑問は、当時別の仕事をしていた新居さんが今の仕事を始めるきっかけとなっています。
「犬を飼おうと思った時のことです。勉強してからじゃないと納得できないタチなので、半年くらいできる限りの勉強をしました。そこで最初に思ったのは、子犬を迎えた時の飼い主は何を演じればいいのだろう?ということ。求められているロールプレイングはなんなのかわかりませんでした」。(新居さん)
新居さんの疑問はどんどん大きくなっていきます。
親代わりとしての教育というのはどういうものなのだろう、思春期になり、成人になり、ライフステージによって役割は変わっていくのではないだろうか。
親、兄弟、友達、ライバル、対人間、飼い主でもあるし、と。
「犬にとって飼い主が全てだと思うと、社会的な役割はどうなるのか疑問でした。でもどこにも書いてなかった。しつけのことや最初が大事、なんてことはどこにでも書いてあるのに、犬目線で今この子に必要なものは何かとか、月齢別世代別の関わり方というのはなかったのです」。(新居さん)
さらに気が付いたことがあります。都市伝説がすごく多い、ということ。
「公園などで犬はこういうものだ、と説教されることがあったけれど、エビデンスがないのが嫌でした。それはどこで誰が言ったの?が気になって仕方なかったのですが、聞いてみると“本に書いてあった”“○○先生が言っていた”という返事ばかり。でもその人はどこから?ということで、情報の源流が知りたくなりました」。(新居さん)
都市伝説ではない、情報の源流を求めて
都市伝説には間違いも多いと感じた新居さんは、情報の源流である海外の専門家や科学者と親しくなり、時にはご自宅に滞在させてもらうまでになります。
「さらにレイモンド・コピンジャー博士のような学習理論の基礎となる行動分析学の科学者たちと会いながら 知識を深めていきました。
カーミングシグナルの考案者であるテューリッド・ルガース、Tタッチのデボラ・ポッツ、オーストラリアの獣医師でBARF(生食理論)の権威イアン ・ ビリングハースト博士、米国の動物トレーニング化学集団アニマルビヘイビアエンタープライズ元社長のボブ・ベイリー、クリッカーエクスポ代表のカレン・プライア、TAGteachインターナショナル代表理事のテレサ・マッケオンなどなど、たくさんのそれぞれの分野で源流である方々と親交を深めました」。(新居さん)
とにかく最初は片端から全部覗いて情報の源流を知り、その中で本物だと思ったことを組み立てていったそう。
世の中にないものは何か?と考えて「しつけ教室に通い始めた人がステップアップしてプロになる」というシステムを作ったのもその一つです。
「ただ、情報の源流を知り科学的な知識をつけたとしても、教えるという立場であるインストラクターはそれをそのまま出すのではダメなのです。シェフで例えるとしたら、素晴らしい材料をどう調理して一流の料理として出すのか、ということ。情報をブレンドして提供する役割はとても大切だと思っています」。(新居さん)
D.I.N.G.O.には様々なクラスがあり、プレオーナークラスはその中の一つに過ぎません。
けれど最初に源流に触れ、知識を得た上で生活を始めれば、人も犬も無用なストレスを抱えずに済むでしょう。
「パピーを迎えてから100回のセミナーに出るより、1回のプレオーナーセミナーに価値があるくらいだと思っています」。(新居さん)
「かわいそう」「話せばわかる」。ありがちな勘違いとは
科学的な視点で犬という動物を理解することの大切さを伝え続けている新居さん。
たくさんの愛犬家やプレオーナーを見てきた中で、ありがちな勘違いにはどんなものがあるか聞いてみました。
「犬とのコミュニケーションでは共通言語をどれだけ作っていけるかが大切で、『話せばわかる』はちょっと違う。日本語がわからない人たちに日本語で話しても『話せばわかる』は通じないですよね。犬に対してもそこは気をつけないと。
犬は自分から人間と生活することを選んだ唯一の動物です。それ故にどうしたら気に入られるかを常に考えています。気持ちのずれが起きないように、本当の相互理解を目指すことが大切です」。(新居さん)
例えば「いい子」という言葉。
私たちは言葉に意味(感情)を持たせますが、犬にとっては『正解か不正解か』が大切なのであって、「いい子」と言われたから褒められた、と感じるわけではないのだそうです。
いい子=正解、ダメ=不正解。
とてもシンプルですし、納得いくお話ではあります。では愛レトに今日起きたことなどを話していることは無駄なのでしょうか?
それだとちょっと寂しいように思うのですが…。
「話しかけることには意味はあります。ニュアンスは汲み取れるし、内容はわからなくても話しかけてもらうことは嬉しいので、色々話しかけるのは良いことです。注意すべきは、話しかけの中にコマンド(キュー)を入れてはいけないということ。『これから準備するから“待って”てね』のように、待てのコマンドの前に前振りがあると犬は混乱してしまいます」。(新居さん)
一緒に幸せになるために
プレオーナーセミナーは最初の一歩。
新居さんからは全てのレト飼いさんに向けてこのようなメッセージをいただきました。
「しつけそのものよりもいろいろな環境に適応できる社会性を身につけることと、飼い主と愛犬との深いコミュニケーションを取ることが、犬を飼う上で大切だと思っています。そのためには正しく自分の犬を理解すること、そして自分の気持ちを上手に愛犬に伝える術を身につけることが何よりも大切だと思います。これは決して感情的な話ではなく、犬の行動原理などをベ−スとしたきわめて科学的なアプローチであり、単に『ほめるしつけ』とか『叩かないトレーニング』ということではありません。
犬の考える力を伸ばし、その結果犬が自発的に飼い主の望む行動をしていく様を見るのが好きです。
気持ちが通じ合わない、飼い主の望んでいることが解らない、なぜ叱られたのか解らない・・・。そんな経験を積み重ねた犬たちは、余計なことをして叱られないよう、どんどん無気力になっていきます。これを「学習性無力感」と呼びますが、一見おとなしくても目の光が無くなって行く犬を見るのは寂しいですね。
叱られるから従うのではなくて、好きだから飼い主のそばにいる、好奇心と喜びに満ちて活き活きとした犬たちが増えることを願っています」。(新居さん)
プロフィール
新居和弥(あらいかずや)
D.I.N.G.O.(Dog Instructors Network Of Great Opportunity)代表
商取引のフェアトレードにヒントを得たフェアトレーニングというコンセプトを実践する道を探り、それを広める活動をしています。
具体的には行動を選択をする動物の権利を大切に、人の都合を押し付けるのではなく、動物にとって「やる、やらない」を含めた選択肢のあるトレーニング方法を優先しています。
技術的にはクリッカートレーニングやフィードバックという考え方を重視しています。犬、猫、うさぎ、小鳥などのコンパニオンアニマルトレーニングは日常的に行っており、QOL向上とハズバンダリートレーニングの実践を目指しています。
クリッカー付きスティックのCLIC STIC考案者です。
18年来日本の二つの少年院で犬を飼い、トレーニングするプロジェクトを立案し実行しています。
D.I.N.G.O.の紹介:
ただかわいいだけの愛玩動物から、人と共に生きるコンパニオンアニマルへと動物との暮らしに対する意識が変わりつつあることを重視し、これからの時代にふさわしいライフスタイルや、近代的で動物にフェアなトレーニングおよび一緒に遊ぶことの楽しさを飼い主に伝えるシステムとしてD.I.N.G.O.は設立されました。
インストラクターの育成及びインストラクターが用いるシステムの構築、クリッカートレーニングなどを用いて犬、猫、鳥、うさぎなどのワークショップやセミナーを開催しています。
著作、監修書籍:
・犬といっしょにクリッカートレーニングをはじめよう
・はじめてのクリッカー
・ほか、うさぎや鳥のクリッカー本
DVD:
・わんポイントクリニック(引っ張りを直したい)
・わんポイントクリニック(吠え癖を直したい)
・わんポイントクリニック(拾い食いを直したい)
・THE BAMBOO CLICKER
・他うさぎや鳥のクリッカーDVD
Roco
『ヒトとイヌ』を永遠のテーマにしているフォトグラファー&ライター。
撮影・執筆の他、写真のレッスンも行う。
フォトグラファーになるきっかけを作ってくれた英国ゴールデンのRubyは15歳2か月で虹の橋へ。 現在の愛犬はトイプードルとオーストラリアン・ラブラドゥードル。
子供の頃からの夢は「ドリトル先生になること」
Facebook:Roco ~LoveLetters~ 写真と言う名のラブレター
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