2022年1月22日3,141 ビュー View

【取材】東洋医学やドイツ自然療法。「うちの子だったら」を模索して出来たのは新しい病院の形

世田谷区の動物病院「ピリカメディカルサロン」代表の水澤佳寿子(みずさわかずこ)さんは、あるきっかけから未経験の分野である動物病院を開院しました。水澤さんはいくつかの会社を経営し、コンサルティングも行う経営のプロ。ただ、ご自身の言葉を借りれば獣医師でも動物のプロでもない“ただの飼い主”。でも愛犬への愛情と持ち前の探究心、経営者としての高い能力が新しい形の動物病院を生み出しました。

ピリカメディカルサロンとはどんな特徴がある病院なのか

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

「宝物」だという最愛の娘たちと水澤さん

診療科目は一般診療、東洋医学、ドイツ自然療法、ドイツ式口腔ケア、問題行動カウンセリング。

 

「初診で多いのはドイツ式口腔ケアですね。気になっている方が多いということだと思います。東洋医学とドイツ自然療法は半々くらい」。(水澤さん)

また、『ピリカメディカルクラブ』という会員システムの内容も他ではあまり見られないもの。

 

こちらは定額の月会費を支払うことで体重測定、触診、聴診、体温測定、爪切り、肛門腺絞り、耳掃除が月に何回でも無料で受けられるサービス。
診療が必要になった場合にも診察料が割引になるなど、とてもお得なクラブです。

 

「うちの子が病院嫌いというのもあるのですが、病院って“いつもの状態”を知っておいてもらうのが難しいですよね。でも“いつもと違う”というのをわかってもらうことは大切なことです。ですから動物病院を好きな場所と思っていただけるように、という思いで考えました」。(水澤さん)

 

確かに病院では興奮してしまったり、逆に緊張で固まってしまったりと、いつもの様子を見てもらうのは難しい場合があるでしょう。

 

でも毎月何度でも通えるからお散歩ついでに顔を見せて、“いつもの○○ちゃん”を知っておいてもらえれば獣医師にも違いがわかりやすくなるというわけです。

 

愛犬との病院通い中で湧き出た疑問

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

トイプードル3頭を連れて仕事で上海に行き、暮らしていた時のこと。
中国から帰国の際の動物検疫は365日以内に9種のワクチンを受け続けていないと書類がクリアできないため、3頭ともそのスパンでワクチン接種を続けていました。

 

「風ちゃんは2年目くらいからはワクチンの後、3ヶ月くらい毛根がやられてしまい皮膚が壊死してしまうことを繰り返していました。シニアになってからもそれを続けるのはどうか、と不安に思いました」。(水澤さん)

 

そこでまずは犬だけ帰国させ、水澤さんは1年後に後を追って帰国。
ただ、帰国後も日本と中国の行き来は続いていました。
すると愛犬の体調に変化が…。

 

「子犬の頃から暮らしていた上海がホームになっていたため、日本はアウェイだったんです。でも私は留守が多かったのでペットシッターさん5〜6人にローテーションで来ていただくという生活でした。慣れない日本、そして知らない人が入れ替わりやってくる。ストレスで3頭に嘔吐、膿皮症、パテラ、などの症状が出るようになりました」。(水澤さん)

 

その頃は帰国のたびに動物病院巡りをしていたと言います。
でもなかなか治らない。
そしてまた病院へ。

 

「症状が出ては病院へ行く。対処療法では完治しないこともあるだろうし、人間だったら専門医がいるのに、という疑問が湧いてきました。実は動物にも専門医や認定医がいるというのをこの時は知らなかったのです」。(水澤さん)

 

コンサルの仕事がきっかけで動物医療業界に関わることに

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

愛犬との暮らしの中で一人の飼い主として動物病院に通い、そして疑問を感じ始めた頃、偶然にも経営コンサルの仕事で動物病院に関わることになりました。

 

そして動物医療の業界に対して問題意識を持つようになったのですが、運命というのは不思議なもので、そのコンサルをきっかけに水澤さんは動物病院を経営する会社を立ち上げることになったのです。

 

「実はコンサル上受け皿としての会社が必要になったので登記して一旦社長になった、というのが実際のところなのです。だから最初は自分がやるなんて考えていませんでした。でもやるはずだった方が辞めてしまったのでやむなく、というか。うちの子たちの病院通いのことも大きなきっかけですけれど」。(水澤さん)

 

まさかの急展開。
でもさすが経営のプロ、そこから怒涛のリサーチと勉強の日々が始まったのです。

 

自分がやるならどういう病院をやるべきか

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

「中から調べなくちゃ、と思って軒並み色んな勉強会に参加しました。トリマーさんの勉強会で上手な泡の立て方とかも学んだし、皮膚の勉強会では獣医さんたちに混じって異常の見つけ方とかもね。一応動物病院経営者なので、専門家の勉強会にも参加するのはできたのです」。(水澤さん)

 

そうしてどんな動物病院をやろうかと考えていく中で、飼い主として不安なのはどういうことなのかも考えるようになりました。
そして思ったのが、状況の理解や対応の仕方がわからないことではないかということ。

 

「子供だったら熱が出たり喉が痛くなったりしたらどうすればいい、とかわかるけれどワンコの場合はどうしたらいいかわからない。とにかく不安は“わからないこと”だと思ったのです。それに対して動物病院は知識の宝庫だから色んなことを教えてくれるといいなと思いました」。(水澤さん)

その思いは開院後、飼い主さん向けのセミナー開催ということに繋がっていきました。
知っているようで知らない、ワクチンは何のためなのか、血液検査の数字の読み方、マッサージのしかた、手作りごはんのことなど。

 

でもそれだけでは動物病院の経営はできません。

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

 

「私の場合獣医ではないので先生に対する見立ては難しい。西洋医学的な技術の高さとか。そんな時ある勉強会で“東洋医学をやっている”という獣医師に出会いました。それが現在の院長である土屋です。それは動物にも東洋医学があると知ったきっかけとなる出会いでした」。(水澤さん)

 

また皮膚がなかなか治らない愛犬の治療に関しても、セミナーに出ているうちに専門医(認定医)というのがあるのだと知り、認定医に診てもらったらすぐに治るという経験をします。

 

「そのような経緯もあり自分の病院は専門病院にしようと決めました。選んだのは東洋医学や自然療法。動物にとって病院はただでさえストレスなのに、西洋医学のケミカルなものはさらにストレスを与えているのではないか?東洋医学や自然療法の方が動物には向いていることもあるのではないか?と思ったのです」。(水澤さん)

 

アメリカ、ドイツ、海外にも積極的に赴いて動物病院や医療の現場を視察

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

新しいことを取り込む時にはアメリカに行くことが多いという水澤さん。
動物病院の開院に際してまずはアメリカに視察へ。

 

「アメリカの知り合いに頼んでいくつかピックアップしてもらいました。世界最大のニューヨークの大病院、全米で800箇所経営しているグループ、日本の獣医師さんの3ヶ所です。その他ペットショップ、ペットホテル、グルーミングサロンも見に行きました。アメリカの動向は近い将来の日本の姿として見ています」。(水澤さん)

 

ドイツ口腔ケアやドイツ自然療法について学ぶためにドイツにも行きました。

 

実はドイツ式口腔ケアは愛犬たちが上海で受けていたのだそうですが、日本にはそのサービスが入っていなかったのです。
そこでドイツで特許をとっている製薬会社とコンタクトを取り、日本に入れるために協力して症例を取りました。

 

さらにドイツの結果だけでなく、日本の検査センターにも出して、安全性が保護できたためサービス開始。

 

「交渉から始まってお客様に使ってもらえるようにするまで9ヶ月かかりました。でも提供をする立場には責任がありますから、信頼している人からの情報だったとしてもそのまま鵜呑みにするのではなく、アウトプットする責任を取るために自分が知ることが大切だと思っています」。(水澤さん)

 

とにかく徹底的に自分で見て、聞いて、を実践しているそうです。

 

「ドイツでは他にもレーザー治療を販売している社長と研究者、獣医さん、その方々と会って臨床データや画像を見せてもらい、レクチャーを受けました」。(水澤さん)

 

「まだやれることがある」飼い主にとって希望があることが大切

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

ピリカメディカルサロンは東洋医学と自然療法の専門病院。
でも西洋医学を否定しているわけではありません。
その子を見立てて、今その子に必要な治療ができればそれは西洋でも東洋でもいいのだと水澤さんは言います。

 

「東洋医学や自然療法はすぐに結果が出るものではないけれど、3ヶ月くらい続けていくと体質が変わっていくことを自分の家の子達で感じています。でも今すぐにどうにかしたい、という症状は西洋医学の方が向いているので、その子を見立てて今その子に必要な治療を提供できるのが理想です」。(水澤さん)

 

また、西洋医学的にはもうやれることがない、となった場合にはバトンタッチしていきたいとも。

 

「西洋医学的にはあれもやったしこれもやった。でももうやれることはないというのはとても辛いことです。でも東洋医学や自然療法だったらまだやれることはある。最後の砦としてまだやれることがあるのは飼い主にとって救いだと思うのです」。(水澤さん)

 

病院のサービスを考える時、「自分の子にやってあげたいかどうか」が判断基準。
そしてピリカメディカルサロンの経営理念は「伴侶動物と共に過ごすご家族の心に寄り添い、常に最善のサポートを提供する」となっています。

 

家族に寄り添うという言葉は一人の愛犬家としての気持ちでもあるのではないでしょうか。

 

「風ちゃん、花ちゃん、宙ちゃんは大切な宝物です。全員がシニア期に入り、赤ちゃんではなくちゃんと人格(犬格?)を持った大人なんだと感じるようにもなりました。今を出来るだけ長く続けたいけれど、いつか病気になったりしんどくなってきたりすることがあるでしょう。その時にこういうものがあると自分がありがたいと思っています」。(水澤さん)

 

ひょんなことから動物病院を経営することになった水澤さんですが、やるとなったら徹底的に考え、調べ、実践するというその行動力と愛犬への愛が新しい形の動物病院を作り上げました。

 

最近では西洋医学の動物病院も傘下に入り、両方からのケアが可能になるそう。
これからも進化を続けながら人と動物の両方に優しい動物病院であり続けて欲しいと願っています。

 

プロフィール

レトリーバー,取材,ピリカメディカルサロン

水澤佳寿子 みずさわかずこ

pirica medical GROUP 株式会社not代表取締役

 

日本国内で保育事業や留学アレンジ、
中国上海でビジネスコンサルティング事業を営む傍ら、2016年ピリカメディカルグループ・株式会社notを設立。
翌年10月に世田谷上町に東洋医学などの自然療法を中心に診察する動物病院「ピリカメディカルサロン」を開業。

自分の子に与えたいことしかしない、自分の子にしないことはしない、という行動規範のもと、動物に負担の少ない医療を獣医師たちとともに研究しつつ、さらに翌年、「中身が見える安心で栄養価の高いごはんを与えたい」と、あらゆる食材が豊富な北海道札幌市に、
直営フードラボを設立。
ドッグフードやおやつ作りを開始する。

現在は、ペットスペース&アニマルクリニックまりも大原店、方南町店を加えて3医療施設と1ラボを運営。
最愛の娘たちは、トイプードルの11歳風(ふう)ちゃん、10歳花(はな)ちゃん、8歳宙(そら)ちゃん。
東京、札幌、上海で3拠点生活を送っている。

 

・HP https://www.pirica.jp/

 

Roco

『ヒトとイヌ』を永遠のテーマにしているフォトグラファー&ライター。

撮影・執筆の他、写真のレッスンも行う。

フォトグラファーになるきっかけを作ってくれた英国ゴールデンのRubyは15歳2か月で虹の橋へ。 現在の愛犬はトイプードルとオーストラリアン・ラブラドゥードル。

子供の頃からの夢は「ドリトル先生になること」

 

 Facebook:Roco ~LoveLetters~ 写真と言う名のラブレター

 

 

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