意識は知識につながる。『0.5次医療』は獣医師とレトリーバーオーナーが“一緒に考える”大切な動物医療です!
予防医療という言葉は耳にすることがあると思うのですが、0.5次医療という言葉は少し聞きなれないかもしれません。「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」の箱崎加奈子先生は動物病院を開業した10年ほど前からずっとぶれることなくこの「0.5次医療」の大切さを伝え続けてきました。
目次
0.5次医療ってなんだろう?
動物病院に行くのはどのような時でしょうか。
予防のためのワクチン接種や健康診断を別にすると、「下痢している」「足をひきずっている」などの症状があり、それを治療してもらいに行くというのが一般的だと思います。
それが1次医療です。
「0.5次は、1次に行くほどではないという状態の時。もしくは『病院に行かなくても良いようにする』ことであると言えます」。(箱崎先生)
病院に行かなくても良いようにすること、というのはどういうことなのでしょうか。
「例えば下痢をしたとします。それ自体は問題ではありませんが、何度も繰り返すようなら再発させないための予防をすることが必要になってきます。食事を変える、サプリメントを利用する、原因を良く考える、下痢について調べてみる、などです」。(箱崎先生)
0.5次医療を考えるきっかけはトリマー時代の出来事
箱崎先生は獣医学部の学生の頃にトリマーの資格を取りすでに仕事を始めていました。
そこでこんなやり取りを何度も経験します。
トリマーさん「イボを見つけました」
オーナーさん「前回はどうでしたか?」
この会話に違和感を覚える方はどれくらいいるでしょうか。
トリマーがイボに気づいたのは「今日」であり、前回どうだったかはわかりません。(あったのならその時言っているでしょう)
「いつ頃から」あったのかは、毎日見ているオーナーが知っているべきことです。
これは「意識してない」「見ていない」「意識して触っていない」ということだと箱崎先生は感じたのだそうです。
「気付かないことを責めるつもりはありません。ですが、全てを意味づけして普段の生活が出来るといいと思います。例えばボディチェックはどうするか、などの方法を知っていれば(意識があれば)触り方が違うはずなのです」。(箱崎先生)
ただ、判断ができるということとは違うので、そこは病院に行って聞くということになります。
まずは気づくこと。
それには「見る(目に入っている)」から「診る」への意識改革がとても重要です。
まずは「意識」それから「知識」
「再発防止のアプローチは病院でやることだけでなく家でやることが入ってきます。
診察ではなく医療、という言葉を使うのはそのためです。診察は医師だけにしかできませんが、医療の知識をつけることはオーナーさんにもできるのです。
できれば獣医が何のために、どんなことをしているのかなどの知識も付けて欲しいです」。(箱崎先生)
とはいえ医療知識というのはそう簡単に身につけられるものではありません。
レトリーバー種がなりやすいと言われている病気や犬全般に多い病気、それだけでもたくさんありすぎて「お医者さんでもないのにそんなの無理…」ってくじけてしまいそう。
でも「意識する」だけでかなり状況は変わるはず。
「病院で得るだけの情報や知識では足りないと、オーナーさんたちを見ていて思っています。意識して動物を見るという感覚、それは医療的な目で『診る』ということに繋がります。まずは『意識』それから『知識』です」。(箱崎先生)
もう少し医療的な知識があれば状況は違っていた…と思わないように
個人的な話になりますが、私の先代犬Ruby(ゴールデンレトリーバー)は11歳の時に子宮蓄膿症を患い手術をしました。
子宮蓄膿症の怖さは知っていましたから、ヒートの後は膿が出たりしていないか注意して見るようにしていたのですが、Rubyは「閉鎖性子宮蓄膿症」で、膿が出ないタイプだったのです。
結論を言えばそれ以外の要因(食欲がない、元気がない)で緊急性を感じて病院に駆け込み事なきを得たのですが、私の「子宮蓄膿症は膿が出るものだ」という思い込みと医学的な知識のなさがRubyの命を脅かしたのだと思いとても後悔しました。
「自分の犬がなる可能性がある病気については少し突っ込んだ解釈まで知識がある方が良いという考え方を、私は持っています」(箱崎先生)
それは医療的、メディカルな知識をオーナー側にも持っていて欲しいということです。
確かにRubyが患った閉鎖性子宮蓄膿症に関しても、私にもっと突っ込んだ知識があれば違っていたと思います。
「その誘導は獣医師が出来ればベストだと思いますが、診察時間は限られていますし、病気があって目的があって来ているので現状起きていないことについての話をするということは難しいのです。
そうなるとオーナーさんが自分で調べる、学ぶ必要がある、という認識を持っていて欲しいと思っています」。(箱崎先生)
知識をつけて質問力を上げよう
知識をつけるための方法としてまず考えられるのは、獣医師を始めとした動物のプロに聞くということですが、自分で調べるという方法もあります。
しかし「意識」を持っていないと何を聞けばいいか、何を調べていいいかわからないという問題が生じます。
「どういう状態になっているかを正しく認識していない人も多いと感じています。飲んでいる薬が何なのか、何のために飲んでいるのかがわからない。これでは困ります」。(箱崎先生)
オーナーとしては「獣医師さんが説明してくれなかったから」と思うかもしれません。
けれど、そこには獣医師とオーナーの認識の違いがありました。
「質問しなければ答えないのが獣医師です。聞かれれば答えますが、聞かれなければ答えません。
来院した理由以外のことであれば、今日は言わないでおこうということもあります。可能性まで言ってしまうと頭がいっぱいになってしまうかもしれないからです。
解決しなければならないことがあるのに他のことを言ってしまって混乱させたくないのです」。(箱崎先生)
答えるのが嫌という獣医師さんはいないとのこと。
質問すれば答えてもらえるのですからどんどん質問しましょう!
ただしそのためにはオーナーが質問できるだけの意識と知識をつけなければなりません。
「毎日来られる動物病院」をコンセプトにした「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」
箱崎先生の「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」はトリミングサロンを併設している完全予約制の動物病院です。
完全予約制と言っても散歩の途中によって聞きたいことを聞けるようなものにしたいという思いがあるので、予約とは別に受付を通さなくてもフリースペースで自由に喋れるところを設けています。
それが「毎日来られる動物病院」というわけです。
「治療目的以外で獣医と会える病院というのが最大の特徴です。毎日ではなくても定期的に来てもらえればそれだけ気付けることが多くなります。
『定期来店』のためにトリミングがあり、予約制ですから同じスタッフ(トリマーと獣医のペア)が定期的に対応できるようになっています」。(箱崎先生)
トリミング前に獣医の診察があり、例えば歯石が付いているか、腰痛はないか、とかそんな話をしたりチェックしたりして、そこでその方に必要そうな情報を与えられるようにしているのだそうです。
「ホルモン性の疾患などはうっすらとした脱毛などから始まるので普通だと換毛期? などと思ってしまいがちですが、プロが見ると特徴があるため何かおかしい、と気づくことができます。
問題はラブラドールなどトリミングを必要としない犬種は来ない、ということです。そういう犬種の人たちを定期来店に持って行くのが課題です」。(箱崎先生)
オーナーも医療従事者も、犬の幸せを願っていることに変わりはない
最後にレト飼いの皆さんへのアドバイスがあれば、とお願いしてみました。
「オーナーさんに望むことは、普段の生活を楽しんで欲しいということです。
すでにレトリーバーのオーナーさんたちはそれが出来ていると思っていますが、さらにその楽しみを増やしていただければと思っています。
一緒にいる時間を増やす、ということでも良いと思います。
そして様々なことに目が行くようになると、興味も増してきます。食事に気をつかえば次のものが見えてくるでしょうし、そのようにしてどんどん知識が増えていくと思います」。(箱崎先生)
愛レトのための『0.5次医療』、これからも毎日の生活を楽しみながら知識をつけていきましょう。
「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」箱崎加奈子先生のプロフィール
経歴
1982年 東京生まれ、東京育ち
2001年 青山ケンネルスクールトリミング科卒業
2007年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
2009年 アニマルプラザ ドッグトレーナーズカレッジ卒業
2001年~2009年
動物病院、ペットショップ、ペットサロン、ペットホテルにて
トリマー、動物看護師として勤務。
獣医師免許取得後は都内動物病院にて診療を行う。
2009年 ペットスペース&アニマルクリニックまりも開業
所属・資格
・獣医師国家資格
・青山ケンネルスクールトリミングB級ライセンス
・ 日本ドッグトレーナー協会 ドッグトレーナーA級ライセンス
クリニック情報
ペットスペース&アニマルクリニックまりも
獣医師によるペットのためのトータルケアサロンとして
東京都世田谷区(大原店)杉並区(方南町店)にて展開。
私達の獣医療は、「0.5次医療」
獣医師(トリマー、動物看護士)が、ご家族と共に、ペットの健康維持管理を日頃から行い、病気にならない身体づくり、病気の早期発見、未病ケアに努めます。
病気からしつけ、ペットとの生活で疑問や不安を気軽に相談の出来るコミュニティスペース、いつまでも健康で元気でいて欲しいと言う願いとともに最後まで寄り添える場所を目指しています。
執筆者:Roco
『ヒトとイヌ』を永遠のテーマにしているフォトグラファー&ライター。
撮影・執筆の他、写真のレッスンも行う。
フォトグラファーになるきっかけを作ってくれた英国ゴールデンのRubyは15歳2か月で虹の橋へ。 現在の愛犬はトイプードルとオーストラリアン・ラブラドゥードル。
子供の頃からの夢は「ドリトル先生になること」
Facebook:Roco ~LoveLetters~ 写真と言う名のラブレター
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